エピソード
vol
80

認知症のお母様のホーム入居への不安を解消した『魔法の手紙』

2013年10月29日

90歳を過ぎていらっしゃるお母様の認知症は日に日に進み、息子様ご夫妻は、在宅での介護がそろそろ限界に感じられていました。お母様にホームへの入居を納得のいくように説得することは、至難の業と思われましたが―。

私(お客様相談担当Y)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

ある出来事をきっかけに

90歳を過ぎたお母様は、一人息子のご夫妻と同居されています。お母様は、認知症が進んでいらっしゃり、デイサービスを週1回利用されていますが、上から物を言う感じで周りの方と接するため、息子様ご夫婦は毎日ハラハラされていました。
ある日、緊急車両を3台同時に呼んでしまうという事件がありました。これを機に、近隣の方のご不安への配慮から、息子様はお母様のホームへの入居を真剣に考え始められました。

どのようにすればお母様が納得してホームをご利用いただけるか、私は息子様と一緒に慎重に考えました。マンションの修繕工事を理由にすることも考えましたが、お母様の性格上、「自分がいないと…」と、余計心配されるに違いないと思い、少しでもご本人に安心していただける理由を考えました。
ご家族様と一緒に考えたのは、息子様に2週間程、架空の海外出張に行っていただき、その間、ホームに滞在していただこうというものでした。お母様に安心していただくために、2日に1回、息子様からホームにFAXを送っていただけるよう、お願いしました。
FAXの文面には「今、アメリカの○○に居ます。元気です。××日に迎えに行くので、安心してください」と書いていただきました。本当にアメリカに行くわけではないので、「そんなに上手く行くだろうか」と息子様は心配されていましたが、私からの提案を了承してくださいました。

いよいよ体験入居開始

いよいよ体験入居が始まりました。たまたまそのホームは俳句が盛んで、昔、短歌の有名な先生のお弟子さんだった経歴をお持ちのお母様は、他の方から「先生」と慕われ、大変気持ちよく過ごされているように見受けられました。息子様も、約束通り2日に1回、ホームへFAXをお送りくださいました。ホーム長がそのFAXをお母様にお渡しすると、とても安心して満足されているようでした。

体験入居から1週間が過ぎました。息子様には、事前にさらに1週間、様子を見させていただけるようご提案しておりましたので、お迎えにはいらっしゃいませんでした。 とはいえ、息子様も心配されていたので、ホームにお越しいただき、お母様のご様子を遠くからこっそりご覧いただきました。ダイニングで談笑されているお母様をご覧になり、息子様は拍子抜けされたご様子で、大変安心されていました。さらに1週間、息子様からのFAXとホームからの状況報告が続きました。

2週間が過ぎると…

ついに、体験入居から2週間が過ぎました。息子様ご夫婦は、お母様に会われましたが、お母様は大変ご機嫌で、「帰りたい」とはおっしゃりませんでした。 お話好きのお母様にとって、24時間話し相手がいるホームには、いつでも周りに自分をたててくれる方々もいて、ご自分の能力を発揮できる『居心地のよいところ』となり、家以外の『ご自分の居場所』を見つけられ、大満足のようでした。
ご機嫌で楽しそうに過ごされるお母様をご覧になり、息子様が「こんなこと、できるんですねぇ…」とおっしゃっていた笑顔が今でも想い出されます。

『海外からFAXを送る』という提案を、息子様が「お母様のために」と心を強く持って、根気強く続けてくださったことに、今も感謝しております。 FAXは、常にお手元に置いて何回も見返すことができる、現代の『魔法の手紙』となったのです。
page-top