エピソード
vol
19

気が付けば部屋がモノでいっぱいに~認知症から詐欺被害に遭われて~

2014年03月20日

「母が複数の押し売りや詐欺の被害に遭い、家がモノであふれています。このまま一人暮らしをさせるのは心配で…」と、娘様からご相談があり―。

私(お客様相談担当M)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

モノがあふれていることを隠していらっしゃったお母様

お父様が亡くなられてからは、アパート経営をしながら、1軒家で一人暮らしを続けられていたお母様。軽い物忘れはあるものの、ご自分のことはご自分でされていたので、電車で1時間ほどのところに住んでいらっしゃる娘様が、月に1~2回、お母様のご様子を見に行かれていました。
しかし、ある時期から娘様が訪れるたびに、お母様が「新聞の集金が来たから、払っておいた」と、おっしゃるようになりました。以前からお母様は、よく通信販売を利用されていたため、「請求書を溜め込んでいるのではないか」と、娘様が隣の部屋の扉を開けてみると、箱ごと買って丸ごと腐らせてしまった果物や、明らかに使いきれない量の健康食品などが部屋中に山積みになっていました。
いつからこの状態なのかはわかりませんでしたが、荷物の奥にあったカレンダーは、1年以上前の日付で止まっています。以前は留学生の受け入れ支援もされ、面倒見のよいお母様は、頼まれると断れない性格で、あらゆる業者から詐欺まがいの工事や、押し売り、集金をされていたことが分かりました。

お母様ご自身は、詐欺だとは気付いておらず、普段通りに修理やお買い物をしているつもりで、手元に集金して置かれていたアパートの家賃から支払いをされていました。お母様が「他の部屋は散らかっているから」と、いつも決まって同じ部屋にしか娘様を通されなかったのは、家中がモノでいっぱいになっていることを隠したかったのだとわかりました。

娘様は、さらなる被害を心配され

娘様は、「このままでは、いつか母が強盗やオレオレ詐欺に遭ってしまうのではないか」と心配され、ご自分の家の近くのホームへ呼び寄せることを検討されました。
お母様は、娘様と一緒にホームへご見学に来てくださいましたが、「今は何も困っていないから、まだホームへは入居したくない」と、強くおっしゃいます。そこで、娘様が同居をご提案されましたが、「あなたには世話にならない」と、拒否されます。
実は、ご自身のお子様を幼い頃に亡くされ、姪御様を娘として育てられたため、「迷惑をかけたくない」という思いを、人一倍強くお持ちのようでした。娘様は、お母様の意思を尊重され、今のままの生活を続けて様子を見に行く頻度を増やすことにし、これ以上被害が大きくならないよう、通帳を預かることにしました。
さらに半年が過ぎた頃、娘様からご連絡があり、「母が『ホームに入ってもよい』と言うことが増えて来ました。気分にムラがあり、言うことはコロコロと変わりますが、気持ちが固まった時にすぐに入れるよう、準備をしておきたいので、手続き書類をいただけますか」と、お話がありました。
お母様は毎日、バスや電車を使って外出をされていましたが、遅くなるまで家に戻られません。モノがあふれてだんだん不衛生になっていくご自宅は居心地が悪く、お一人での生活も寂しくなり、「ホームへ入居してもよい」というお気持ちへ動いたように、娘様には感じられました。

お母様に納得していただけるように説明を

ご入居の準備は、健康診断書を作成するまではスムーズでしたが、その後でお母様のお気持ちが変わられてしまいました。訪問販売による被害も、怪しいリフォーム業者からの電話や訪問も続いています。娘様ご家族は、週に2回、お母様のところへ通うことが精一杯で、とても被害を防ぎきれません。家の中は、ますますゴミ屋敷のようになっていき、お母様お一人で入浴や洗濯ができているのかもわかりません。
娘様は、「もうこれ以上、一人暮らしを続けさせるわけにはいかないけれど、本人を傷つけずにその気にさせるには、どうしたらよいか」と悩まれ、改めてご相談をいただきました。そこで、ご自宅が老朽化してきていたので、「家の老朽化が進んでいて、このままではもう住めないので、建て直す間はホームへ」と、お話しさせていただくことにし、お母様にもご納得いただけました。
ご入居前に通常、ホーム長やスタッフが普段のご生活の様子を確認するため、ご自宅へご挨拶にうかがいますが、お母様は、「散らかっている自宅を見せたくない」と強く拒否されたため、ホームにお越しいただき、お話をうかがうことになりました。いつもきちんとお化粧をして、スカート姿のオシャレなお母様は、今のご自宅のご様子をとても恥ずかしいことだと思われ、周囲には一生懸命に隠そうとされていたのです。
介護保険の認定調査も、「ご自宅に人が入るのは嫌だ」と拒否されていたそうですが、ホームへの入居をきっかけに受けた認定調査で、実は認知症の症状が予想よりも進んでいることがわかりました。

ホームにご入居されてからは、生活のリズムも整い、詐欺に騙される心配もなくなりました。すぐ近くに住む娘様は、毎日ホームへ通われ、お母様とお散歩をされたり、ご自宅で一緒にお茶を飲まれたりして、楽しまれています。
ご自宅で一人暮らしをされ、食事のために毎日一人で外出されるご生活から、いつも人がそばにいて、昼間は毎日、娘様とくつろぎのひとときを過ごせるようになりました。
娘様も、お母様も、ご一緒に過ごせる時間を、とても大切にされています。
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