エピソード
vol
26

「レビー小体型認知症」で幻視が見えるお義母様に安心していただくために

2014年05月01日

A様のお義母様は、4年前に認知症と診断されてからもご自宅でお一人暮らしを続けていらっしゃいました。しかし、最近になって「夜中に誰かがチャイムを鳴らしている」「庭に人が居る」と、おっしゃることが増え…。

私(お客様相談担当K)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

ご家族様には見えない物を「見える」と訴えられて

お義母様は、大きな家で身の回りのことはすべてご自分でされながら一人暮らしをされていましたが、1年程前から物忘れが増えてこられました。A様はお義母様を気遣い、頻繁に家に通われ、週末にはお孫様も泊りに行かれたりしていましたが、最近になって「玄関に悪い人がいる」「お庭に人がたくさんいる」と、おっしゃるようになりました。
ある日A様とお孫様がお義母様の家に行かれると、「小さな子どもが遊びに来たのよ」と、居間には来客用のお茶が出されており、何日か後には、「また小さな子どもが遊びに来たの」と、前回お義母様へ差し入れたお弁当が、手をつけずに広げられていることもありました。また、「物陰から人が見ていてこわい」と不安を強く訴えられる日も出てきました
心配されたA様は、お義母様の生活のご様子をビデオで録画されましたが、不審な来訪者は無く、お義母様は見えない相手に2人分のお茶を入れ、お食事を運ばれていらっしゃいました。病院でMRIを受けた結果、お義母様は、幻視(見えるはずのないものが見える)が起こることが特徴的な「レビー小体型認知症(※)」と診断されました。



※レビー小体型認知症とは…
アルツハイマー病に次いで多い認知症で、認知症全体の約2割を占めています。記憶障害などアルツハイマー病やパーキンソン病に似た症状が出ますが、病気の初期から幻覚(特に幻視)が出ることが特徴です。

お孫様がキーパーソンになって

大きな一軒家で幻視が見えながらの一人暮らしは、とても不安なことだと想像できます。人に囲まれた生活の方が、病状の悪化を防げるという話もありました。
A様は、お義母様が安心して生活するため、ホームへの入居を提案したいと考えられました。ただ、A様はお義母様にとって「亡くなった娘の夫」と、少し距離のある関係であったため、ご自分がお義母様にホームへの入居をおすすめすることは、お義母様のお気持ちを害するのではないかと悩まれていました。
加えて、病気のお義母様を受け入れてくれるかの心配もありました。「他の人には見えない物が見えて、こわいと言っています。こういった病気の人でも入居できますか?」「入居の理由を義母の病気のせいにすると、拒否が強くなるかもしれないので、他に納得しやすい説明の方法はありますか?」ホームにもそう言ってご相談にみえました。
お義母様と同じご病気の方は、他のホームにもいらっしゃいます。そのホームでは、何かが見えてこわいとおっしゃる時には「見える」とおっしゃっていることは否定せずに、「こわいですね、心配ですね」「追い払っておきますから待っていてくださいね」と、「こわい」というお気持ちに寄り添いながらお声がけをして、安心していただくようご対応をしていることをご説明させていただきました。
また、お義母様の気持ちを害さぬよう、血の繋がりのあるお孫様をお義母様と直接のやりとりを行うキーパーソンと決めていただきました。ホームへご入居いただく理由は、「家も古くなってきているし、人が覗けないように修理をした方がよいよね。その間は近所にお食事の用意もしてくれて、泊まれるところがあるから、そこに居たら?」とご説明いただき、お義母様に快く納得をしていただくことができました。

ご不安なお気持ちに寄り添いながら

ご入居された後のお義母様は、ご自宅では家事などに追われて描けなかった大好きな絵を長時間集中して描かれるようになりました。しばらくは「何かが見える」とおっしゃることもなく、A様が来られたり、お孫様がお仕事帰りに寄られたりとご自宅と同じように落ち着いたご生活が続きました。
しかし、ある時から、再び「小人が来た」とおっしゃるようになり、「どうしてここに閉じ込めたままで、出してくれないの?」とおっしゃることが増えてきました。
ホームの看護職員から「ご自宅に帰れないこともご不安のひとつになって、幻視が出るようになっているのではないか」との話が出、お義母様はホームでのご生活にも慣れていらっしゃっており、「ここは、いつでも相談できる人が居て、食事の準備もして貰えるし、温かいし、よいところね」とおっしゃっていただいたため、「いったん家に帰って必要なものを取りに行かれるのもいいのでは」とホームからご家族様にご提案差し上げました。
「一度自宅に帰ると、義母はもうホームに戻らないと言うのではないか」とご家族様は心配をされましたが、むしろ、このままご自宅に帰れない方が、「なぜ帰してくれないのか。もう自宅は無くなってしまったのではないか」とご心配が強くなり「家族は私に隠しごとをしているのではないか」と、不信感を抱かれるようになる可能性があることをお伝えすると、ご家族様も納得され、ご家族が付き添われてご自宅との行き来をされるようになりました。
その後も、幻視の症状が現れることもありますが、お義母様のお気持ちに合わせてじっくりとお話をお聴きすると、不安な気持ちも落ち着かれ、「安心した」とおっしゃっていただきながらご生活いただいています。
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