エピソード
vol
57

離れて暮らす母を呼び寄せる ~ご家族様の決断の背中を押して

2015年06月12日

ある日突然、脱水症状で緊急入院された一人暮らしのA様。住み慣れた場所での生活を守るべきか、呼び寄せをするべきか。義父母と同居をしている娘様は、おひとりで悩みを抱え込まれて・・・。

私(お客様相談担当H)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

一人暮らしのお母様が突然倒れて

80歳に手が届くご年齢となったA様は、2年前に旦那様を亡くされて以来、一人暮らしを続けて来られました。腎臓と心臓に疾患があり、歩くときは杖を使われていましたが、介護認定は要支援1程度で、ご自身でデイサービスに通われるのを日課とされていました。

ある日、デイサービスを無断で休まれたA様。心配したデイサービスの職員の方がご自宅まで伺うと、そこにはグッタリと横たわるA様のお姿が。すぐに病院に運ばれ、緊急入院。命に別条はなかったものの、脱水症状と診断されました。

脱水状態に陥ってしまった原因は、食事量の低下が原因でした。A様はお食事は宅食サービスを利用されていましたが、冷たい食事では味気がなく、食が細くなられていた事が原因だったようです。

加えて、A様には認知症の症状も出始めている事が分かりました。食事を摂られていなかったのも、認知症の影響によるものとも考えられます。これまではお一人で何とか生活されてきたA様ですが、この先何があるか分かりません。

そんな状況を知らされた唯一の肉親である娘様は、今後のお母様の生活について相当に悩まれていらっしゃいました。A様を自宅で一人にしておくのは心配でたまらない。けれど、離れて暮らしている自分の元へ呼び寄せるのは双方にとって負担がかかる。

そんな迷いの中で、娘様はご自宅の近くにあるベネッセのホームにご相談に見えられたのです。

母の人生を想う娘の葛藤

ご主人に付き添われホームにいらっしゃった娘様は、顔色も悪く、A様の行き先について一人で抱え込んで悩まれておられるご様子が感じられました。

入居に際しては入居先の選定や当人の同意を得られるかといった問題だけでなく、入居のための費用の捻出など、課題が多岐に渡ります。センシティブな話題だからこそ、A様は周りに相談することもできず、疲弊しきっていらっしゃいました。

お話を伺うと、すでにA様は様々な施設の情報を調べられ、また実際にご自身で足を運ばれているご様子。

「はじめは療養型の病院がいいと思ったんだけど、あそこは寝たきりの方が多くて、まだ元気な母の生活の場所としては選びたくなくて…」

「このまま自宅で一人で生活してもらうのは不安です。だけど、私は義父母と同居していますから同居は不可能で…」

一度言葉を吐き出されると、そんなお気持ちを次々と口に出されます。

特に、娘様のお話を伺っていて最も感じたのはA様に対する「罪悪感」でした。旦那様のご両親と同居されている娘様は、「義父母の傍には居るのに、実の母の世話が出来てない。母に親孝行をしたい」というお気持ちを強くお持ちになられていました。

加えて、A様の生活環境を変えることへの不安も口にされていました。身近で世話をするためにA様を自分の近くに呼び寄せれば、それはA様のこれまでの生活を捨てさせることになってしまうのではないか。

「自分から母の元に行って生活することは叶わないけど、母を自分の元に呼び寄せるにはためらいを感じる」そんな葛藤の中で、A様が酷く神経を擦り減らせているのを痛いほど感じたのでした。

ご家族様の決断を後押しする

私の実家もA様と娘様の距離と同じくらい離れています。まだ両親共に元気に暮らしてはいますが、同じような状況になったらと娘様のお気持ちを想像すれば、その心の葛藤は痛いくらいに理解できます。

そんな心情から、思わず「いつ同じ事が起こるとも限らないと思うと心配ですよね」「住み慣れた土地を離れて生活していただく事には、大変な迷いがありますよね」と、無意識のうちに言葉を発していました。

A様に限らず、遠方のご両親を心配されて呼び寄せをされる方は少なくありません。過去にお手伝いさせていただいた方のお話を例に出しながら、A様にとって本当によい選択肢は何なのかをご一緒に検討させていただきました。

最終的に、娘様は「ご自宅近くのベネッセのホームにA様を呼び寄せる」という結論を出されました。

もしかすると、娘様のお気持ちは初めから決まっていて、私はただそのお気持ちを後押ししただけかもしれません。それでも、この娘様の選択は必ずやご本人にとっても、そしてご家族様にとっても良い選択であり、それを少しでもお手伝いできてよかったと思っています。

A様ご自身はホームでお友達が出来、お食事もきちんと摂れるようになったことで、顔色がみるみるうちによくなられました。と同時に、それに安心された娘様の表情にも笑顔が溢れるようになりました。

ホームは、ご本人様だけではなく、ご家族様の笑顔も取り戻せる。そんなお手伝いが出来る場所なのだという事を改めて感じさせていただ事例です。
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