エピソード
vol
67

骨折後、寝たきり状態だったお父様が歩けるように

2016年11月21日

腰を圧迫骨折し、「寝たきり」を余儀なくされていたA様。 毎日の生活に必要な「座る、立つ、歩く」の動作をホームでお手伝いした結果……。

私(お客様相談担当I)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

立つことも座ることもできず、病院のベッドに固定されていたA様

今年93歳のA様がご入居されたのは、およそ1年半前のこと。当時のA様は、歩くことはおろか、立つことも、車椅子に座っていることもできない状態でした。

A様には奥様と2人の娘様がいらっしゃいます。娘様はそれぞれご家庭を持ち独立され、A様はご自宅で奥様と二人暮らしでした。
ある日、A様は足腰に痛みが出て歩けなくなり、ご自宅では「ほふく前進」でしか移動できなくなりました。
病院で診てもらったところ、腰を圧迫骨折しているため、即、入院することになりましたが、高齢なので手術は難しく、患部を固定して安静に寝ているほかはないという状況でした。

A様には認知症状があり、痛みの感覚がわかりにくく、動かずじっとしていることができません。そこで病院では、悪化とケガを防ぐため、安全ベルトで固定せざるを得なくなりました。ベッドに拘束されているお父様の姿を見たご家族様は、「一刻も早くここから出してあげたい」と強く思われたそうです。そして、入院生活が長くなると動くこともできなくなってしまうことも心配され、ご長女のお姑様がベネッセのホームにご入居されていたこともあり、「退院後はぜひベネッセで」とご相談を受け、ご入居が決まりました。

まずは、A様の安全性を重視し、ベッドを一番低くして転落に備え(ホームのベッドに囲いや柵はありません)、スタッフの見守り回数を増やしてこまめにご様子をうかがうようにし、ホームでの生活が始まりました。

「生活の中でのリハビリ」で日常生活に必要な動作をお手伝い

大学時代は柔道部で活躍されていたというA様。戦時中、シベリア抑留のご経験もあるタフな方です。一風変わったご趣味もお持ちで、ワニや猿を飼っていたこともあったそうです。いろいろなことに興味をお持ちで、実際に行動することがお好きな方でしたが、入居当初は、はっきりとした意志を示されることはなく、「歩きたい」というお言葉を聞くこともありませんでした。
そこで、私たちはご家族様のお話と病院での生活のご様子から、以前のように立ったり歩いたりが普通にできる日常生活を求めてらっしゃるのではないかと考えました。
そのためには、やはりリハビリが必要です。そこで、「立つ・座る・歩く」といった、日常生活を送るうえで必要な基本的な動作をお手伝いすることから始めました。このような「日常生活動作」を通じてのリハビリを、私たちは「生活リハビリ」と呼んでいます。ご入居者様には「リハビリしましょうか?」ではなく、たとえば「おトイレ行きましょうか?」とお声をかけてできるだけ自分でしていただけるように見守っています。
A様の場合最初は、体重すべてを支える「全介助」によって座る姿勢を保ってもらっていました。それが、だんだんお尻を支えるだけの「軽介助」となり、ご自身の力で車椅子に座っていられるようになりました。車椅子やダイニングの椅子に座られている様子などを見ながら、「次は(背もたれや支えのない)トイレにも座れますね」というように、A様ができそうなことを一つひとつ見定めてお手伝いの仕方を変え、ご自身でできることを増やしていきました。

たった3ヶ月で、小走りができるように

ずっと寝ていた人が体を起こして座る姿勢を保つこと、ずっと座っていた人が立ち上がること、そして、立つのがやっとの人が2歩3歩、歩くこと。これは、本当に大変なことです。
しかしA様は、持ち前の好奇心と行動力で、驚くスピードで機能を回復されていき、ご入居からほぼ3ヶ月でゆっくりと歩けるまでになりました。

ある日、いつものようにご家族様が様子を見に来られ、A様がエントランスまでお迎えに来られていた時のことです。玄関を入ったところにエレベーターがあるのですが、A様は、閉まりかけたドアに向かって「ちょっと待って~」と言いながら小走りでエレベーターを停めました。それをご覧になったご家族様は、衝撃のあまり「お父さんが〜!」と感激を通り越して、笑いが止まりませんでした。そのあとお部屋で「お父さん違ったね、変わったわね」としみじみお話しされていた光景が今も忘れられません。

認知症でご本人様の意思がわかりにくい場合でも、普段のご様子や「できること」をスタッフがしっかり見定めながらホームで「日々の生活」を送っていただくことによって、リハビリ病院にも勝る結果につながりました。ご本人様、ご家族様と目線を合わせながら、毎日の生活に必要なことを、そのときそのときで少しずつ行っていく。そして、それを継続していくことが、とても大切なのだと改めて思えたエピソードでした。
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