介護離職とは?仕事と介護を両立するための解決策を解説

公開日:2021年12月22日更新日:2023年03月21日
介護離職

家族の介護をしていると、仕事との両立に悩むことも多いでしょう。「今はいいけれど、将来が不安」「心身の疲労を癒す暇がない」といったお悩みを抱えた末に、介護離職について検討する方もいるかもしれません。

しかし、目先の対応のために、介護離職を選択すると多大なデメリットになってしまうことも。まずは、仕事と介護がどうすれば両立できるかを考えてみましょう。

この記事では、介護離職がもたらすデメリットとともに、両方の負担を減らせる解決策について解説します。

介護離職とは?

介護離職とは、家族の介護をする必要から現在の仕事を辞めることを言います。

介護の必要性が高まると、食事や排せつといった日常の動作すべてに介助を求められます。ところが、仕事をしていると早朝と夜間以外の介護ができません。また、仕事で疲れて帰ってきた後で介護をするのは、心身に多大な負荷がかかります。とはいえ、介護をせずに放置するわけにもいきません。

このような理由で、やむを得ず仕事を辞めて介護に専念するケースがあります。これが介護離職です。
このページでは、介護離職という問題の現状と、そういった状況に対してのモデルケースを通して解決策のヒントをご紹介します。

データで見る介護離職の実態

介護離職の実態について、まず、各種データをもとに解説します。介護離職が実際にどの程度起こっているのか、また、介護離職をした後の暮らしがどうなるのか、把握しておきましょう。

働きながら介護をする人は意外に多い

まずは、働きながら介護をしている人の割合について見てみましょう。

総務省の2018年「就業構造基本調査」によると、2017年10月時点で、介護中の人で、有業者は59.7%(男性65.3%、女性49.3%)です。

特に、40歳~59歳の男性は87%以上が有業者と高い割合となっています。また、女性では、40~49歳が68.2%と高いです。

いずれの年代にせよ、働きながら介護をしている人の割合は男性の方が高いようです。しかし、女性も約半数は働いています。

介護を理由に離職する人は増加傾向にある

厚生労働省の2020年「雇用動向調査」によると、介護離職者数は、2000年には38,000人、2010年には49,600人、2019年には100,200人と、年々増えています。特に、近年の増加は顕著で、2019年には10万人を超える人が介護離職をしています。

高齢化や核家族化、女性の社会進出が進む中で、介護の担い手が不足して離職せざるを得ない人が増えているといえるでしょう。

介護や看護を理由に離職する人は高齢者が多い

厚生労働省の2020年「雇用動向調査」※によると、2020年の「介護・看護を理由とする離職率」は、男性、女性共に65歳以上が最多となっています。

なお、2019年の調査では、男性は65歳以上が最多であったものの、女性は60~64歳が最多、次が55~59歳です。また、その次に多かった30~34歳(50~54歳と同率)については、2020年は0.0%と急減しています。

介護離職をする人の高齢化が進んでいるといえるでしょう。

※参照:厚生労働省:2017年「就業構造基本調査」

介護離職後の再就職率は低い

介護離職後の再就職について、総務省の調査(※)によると、離職後に再就職できた人の割合は、介護離職者全体の3割ほどという結果がでています。
再就職が難しい理由としては、主に下記の点がネックとなることが多いとされています。

  • 年齢的な問題
  • 職歴の空白期間
  • 介護と就職活動の両立の難しさ

離職前と同じく正社員としての再就職はさらに難しく、収入は離職前より下がるケースも珍しくありません。

※総務省:平成30年「介護離職に関する意識等調査」 平成29年「就業構造基本調査」

介護離職に至る理由とモデルケース

みずほ情報総研の調査(※)によると、介護離職をした理由のうち、もっとも多いのは「体力的に両立が難しかった」、次いで「自分以外に家族で介護を担う人がいなかった」、「介護のために仕事の責任を果たせなくなった」となっています。

上記の結果からは、離職以外の方法を選びづらい現状が見えてきます。介護離職の現状について、実例をもとにしたモデルケースを2例紹介します。

※みずほ情報総研株式会社:2017年「介護と仕事の両立を実現するための効果的な在宅サービスのケアの体制(介護サービスモデル)に関する調査研究」

モデルケース【1】

母親が認知症になってしまったAさん。父親は転倒による骨折で入院中かつ高齢であることから、退院後も介護を担うのは困難です。そこで、子どもであるAさんが通いで介護をすることになりました。 しかし、1年後には認知症が進んで目を離せなくなり、結局介護離職となりました。退院した父親の面倒も見なければならず、復職の目途も立たないまま、貯金と年金でどうにかやりくりをする日々です。

モデルケース【2】

同居する親の介護をしながら会社勤めをしていたBさん。親の通院や介護の都合で仕事を休まなければいけないことが増え、周囲の視線が気になり始めました。家に帰っても介護ばかりで自分の時間をとれず、会社との板挟みで段々と余裕がなくなっていきました。

そのような状態が半年ほど続いた後、本人が抑うつ状態になってしまい、仕事も続けられず、離職せざるをえませんでした。お金の心配と介護の負担が大きくなる中で、今後の生活に不安を感じています。

上記はほんの一部のモデルケースですが、多くの人が直面する可能性があるはずです。

介護離職のメリット・デメリット

デメリットが取りざたされることの多い介護離職ですが、メリットがないわけではありません。メリットとデメリット、両面から介護離職を見ていきましょう。

介護離職のメリット

介護離職のメリットは、以下の通りです。

  • 介護と仕事の両立による心身の負荷を低減できる
  • 十分に時間をかけて余裕のある介護ができる

介護離職のもっとも大きなメリットは、介護をする方が仕事と介護の板挟みになる必要がなくなる点でしょう。介護に専念できることから、余裕のある対応も可能になります。
一方、「外部に委託していた介護サービスを減らすことで、介護費用を削減できる」という考え方もできますが、支出を減らせても収入も減るため「介護費用の削減を目的に離職する」はあまり意味がないかもしれません。

介護離職のデメリット

介護と仕事の両立が難しくなった際の選択肢である介護離職ですが、デメリットが大きいことから、慎重に判断する必要があります。

  • 会社から得ていた収入がなくなり、一生涯の収入が減る(退職金や年金にも影響)
  • キャリアが途絶え、再就職が難しくなる
  • 社会とのつながりがなくなり、介護者との距離が近くなりすぎる

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「調査実施時期2013年1月」のアンケートによると、負担が増したと答えた人の割合は、経済面がもっとも多い結果です。しかし、肉体面や精神面についても、負担が増したと答えた人が過半数を超えています。

介護離職をして、肉体面や精神面が楽になり「良かった」と思える人もいるでしょう。しかし、その一方で、両面の負担が増え、後悔する人も少なくありません。安易に介護離職を選ぶのではなく、現在の負担を和らげた上で、仕事と両立する方法について検討してみましょう。

介護離職防止のための支援制度

介護離職を避けるためには、さまざまな支援制度を知り、有効活用することが大切です。介護と仕事の両立で悩んだときに利用できる制度について解説します。

介護休業制度

介護休業は、介護を受ける対象家族1人につき3回、合計93日まで休業できる制度です。連続して93日間取ることもできますし、30日ずつ2回と33日など、分割して取ることもできます。とはいえ、介護休業を取得すれば、その後の介護が不要になるとは考えにくいでしょう。この期間には、自分が介護を行うだけではなく、介護サービスを導入する、施設の入居契約を結ぶなど、仕事と介護を両立できる体制を整えることが大切です。

介護休暇

デイサービス等への送り迎えや通院など付き添いが必要なときに、休暇が取れる制度です。対象家族1人につき年に5日まで取得できて、1日単位ではなく、時間単位で休むことも可能です。

なお、介護休暇の際に給与が支払われるかどうかは、会社の規定次第です。支払われるところもあれば、支払われないところもあります。とはいえ、無給でも仕事を辞めずに継続できますから、離職よりもお金に困るリスクは低くなるでしょう。

介護のための短時間勤務等の制度

従業員が介護と仕事を両立できるように、会社側が短時間勤務等の制度を設けている場合もあります。

なお、会社は以下の制度、あるいは介護サービス費用の助成制度のいずれかを用意しなければいけません(利用開始から3年以内に2回以上利用可能なもの)。

短時間勤務の制度

短時間勤務は、所定労働時間を短縮できる制度です。1日あたりの勤務時間を減らすだけでなく、1週あたりや1ヶ月あたりの勤務時間や勤務日数を減らすケースもあります。

フレックスタイム

フレックスタイム制は、3ヶ月以内の任意の期間の所定労働時間をあらかじめ設定し、それを満たす形で従業員が自由に働く時間を設定できる制度です。所定労働時間を満たしていれば、いつ働くのかは従業員が決められます。

時差出勤の制度

出勤時間や退勤時間を従業員が調整できる制度です。ただし、1日の所定労働時間は変わりません。

利用する介護サービス費用の助成

従業員がご家族のために介護サービスを利用する際、会社が費用の助成を行う制度です。福利厚生制度の一環として用意している会社もあります。

介護のための残業免除

介護が必要になった場合、残業をするのが難しくなるでしょう。そのような時は、会社に伝えることで残業を免除してもらえます。

この制度は「所定外労働の制限」というもので、法律で認められている制度です。

介護休業給付金

介護休業給付は、雇用保険の被保険者が前述の介護休業を利用した際に受け取れる給付金です。2週間以上にわたって常時介護が必要な配偶者や親、子、祖父母などがいる場合に利用できます。ハローワークでの手続きが必要です。

なお、介護休業給付金は、原則として介護休業を開始した日の前2年間のうち、12ヶ月以上雇用保険に加入していた方が対象です。
対象になる場合は、介護休業前の給与の67%にあたる介護休業給付が雇用保険から支払われます。

介護離職を防ぐためのヒント

介護離職を防ぐためには、会社で利用できる「さまざまな両立支援制度の活用」と、「介護サービスや制度の活用」、この2つが大切です。

いくら仕事を休んだり、時短制度を活用したりしても、自分だけで介護を担おうとすると、結局は負担が大きくなりすぎてしまいます。介護離職をせずに、家族みんなが安心して暮らしていくための解決策を紹介します。

地域包括支援センターに相談

地域包括支援センターとは、介護が必要になってからも、住み慣れた地域で暮らし続けるためのサポートをしてくれる施設です。各地域に設置されているため、最寄りのセンターを訪ねてみましょう。

地域包括支援センターでは、介護に関する総合的な相談に乗ってもらえるほか、将来受けられる公的サービスの種類、どこに相談にいけばよいかわからない場合の案内、地域の高齢者向けイベントの開催情報など、多くのことを教えてもらえます。

介護保険を活用した介護サービスの利用

介護と仕事を両立するためには、介護サービスをうまく取り入れることが大切です。介護保険を利用すると介護費用の負担を軽減できます。

介護保険を利用できるサービスには、訪問介護やバリアフリー住宅へのリフォーム、介護用品のレンタル、など自宅で受けられる居宅サービスと、特別養護老人ホームへの入居など施設サービスがあります。また、要介護の方でも過ごしやすい有料老人ホームに入居して、介護や生活支援サービスを受けることも可能です。

ケアマネジャーと相談しながらこれらのサービスを組み合わせた介護サービス計画書(ケアプラン)を作成します。さまざまな選択肢から、介護を受ける方やご家族の状態にあったサービスを選択しましょう。どのような暮らし方が良いか迷ったときは、ひとりで抱え込まず前述の地域包括支援センターや、ケアマネジャーに相談しましょう。

また、働きながら介護する方はケアマネジャーに自分の働き方や介護への関わり方を伝えるとよいでしょう。職場には、ケアプランを伝え、働き方を調整し、仕事と介護の両立を検討しましょう。

監修者:川上 由里子(かわかみ ゆりこ)
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)
川上 由里子
監修者:川上 由里子(かわかみ ゆりこ)
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)

大学病院、高齢者住宅などで看護師として勤め、大手不動産株式会社「ケアデザイン」の立ち上げに参画。支える人を支えるコンサルティングを開発実施。著書に[介護生活これで安心](小学館)「働きながら介護する〜ケアも仕事も暮らしもバランスとって〜」(技術評論社)。

自身も働きながら父親の遠距離介護を体験。介護、看護、医療サービスを利用しながら在宅での最期を看取り、多くの学び、想いを得る。現在は介護関連のコンサルティングの他、講演、執筆活動を行っている。希望は心と心を結ぶケアを広げていくこと。

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