ベネッセの介護25年の深化

認知症になっても、「私らしさ」は変わらない こころを動かすメソッド

その方の「心のありか」を見つける

認知症の方との生活では、ご様子が落ち着かない時がある、イライラしていることが多いなど、症状により本来の「その方らしさ」が見えにくくなることがよくあります。

私たちは、どのようなかかわり方をすれば、認知症の方にも「その方らしい」生き方を実現していただけるかを考えるなかで、ホームでご入居者様がかつてのご様子を取り戻された事例について分析を始めました。そこから手がかりを導き出し、認知症の方の気持ちや行動を引き出すきっかけにつながるものとして言語化したのが『認知症ケアメソッド』(図)です。

認知症で現れる症状には、ご本人にとっての理由があります。たとえば、「家に帰る」とご自宅から外に出て歩き続けていた場合、一般的には「徘徊」のような行為といわれますが、以前暮らしていた場所へ戻ろうとしていたのだ、と後からわかることがあります。その理由につながる「心のありか」を探すためには、まずお一人おひとりを「とことん知ること」がとても重要になります。

その方らしさを知る

こころが動く

からだが動く

支え合う

リスクと向き合う

暮らしを整える

生きるがひろがる

その方ならではの「役割」を見つける

〈 認知症ケアメソッド 〉

認知症ケアにおける手がかりを自発支援®のサイクルに沿って7つのテーマに分類。

「危ないからあきらめる」を前提にしない

認知症の方に対しては、特に「安全・安心」が重視されます。もし、その方を深く知るなかで、心にふれるきっかけが見つけられても、ひとつでも危険だと思われることがあったら、「できない」とあきらめた方がよいのでしょうか。

一人暮らしのご自宅であれば、包丁やコンロ、剪定ばさみなど「危ないと思われるもの」は、ご家族様が使わせない、という選択もあるでしょう。でも、ホームには「お仲間」や私たち「スタッフ」がいて、ご自宅より安心して暮らせる「環境」があります。だからこそ、最初から「危ないから何にもしない」という選択をするのではなく、その方が「やりたいこと」を実現するために『リスクと向き合う』方法がないかを考えます。

お一人おひとりに向き合い、その方の持つ力をしっかり見極めながら、「できる環境」を整えていく。そして、リスクを完全に拭い去ることは困難なものの、そのことを含めてご家族様にご理解いただきながら、もう一度、その方の「やりたいこと」に挑戦していただくことを目指したい。それが、ベネッセの認知症ケアへの想いです。

「なじみのもの」をちりばめ、記憶を呼び起こす

「その方らしさ」につながるヒントが見つかり、「できる環境」を整えられたら、その方が見慣れている、あるいはよく使われていた「なじみのもの」を用意します。

たとえば、ホーム合同のイベントを企画し、その実行委員を募集することになった際、スタッフからお声がけするのではなく、回覧板を使ってご案内したところ、ご入居者様の「こころが動く」きっかけになった事例があります。

イメージ

その方は、認知症の症状のひとつである帰宅願望が強く表れ、「することがないから帰る」と荷造りされる毎日でしたが、回覧板をお渡しすると募集告知を読まれ、自ら実行委員会に立候補。そして、定期的に委員会へ参加されるようになりました。

さらに、その方を深く知るなかで、多趣味であることや困っている人を放っておけない性格などがわかり、得意な習字を活かしたポスターの題字書きのほか、当日は困り顔のスタッフに代わって司会進行など、さまざまな役を担ってくださいました。私たちには意外に思えるものも、その方にとって「なじみのもの」が懐かしさだけでなく、体に染みついた記憶を呼び起こすことにつながったのです。

このように「なじみのもの」がきっかけとなり、これまでの人生で行ってきたことへ自然に取り組むことができたことにより、かつてのご本人の姿を取り戻される例が多々あります。認知症というベールで見えなくなっていた「その方らしさ」を引き出し、「やりたいこと」を実現することは、その方ならではの役割や希望を見つけることにつながり、笑顔ある生活がまた始まっていくのです。

お一人おひとりが異なる人生を歩んできたように、ケアのかたちもお一人おひとり異なります。その方にとってのあらゆるケアのかかわり方を探りながら、最適な方法を見い出していくことが大切です。

ご紹介しているエピソードは、個々のご入居者様の事例です。また、ご提供できるサービスやケアの内容は、ご入居者様お一人おひとりの心身の状態やホームの状況によって異なりますので、個別にご相談くださいますようお願い申し上げます。

※「自発支援®」とは、高齢者の自発的な活動を支援する株式会社ベネッセスタイルケアのサービスの名称です。

  • 認知症ケアのメソッド創出に貢献した「まどか川口芝」がリビング・オブ・ザ・イヤー2016の大賞受賞*1

    ご入居者様の尊厳を大切にした取り組みが高く評価され、「介護看護サービス部門」の最優秀賞に加え、全7部門の「大賞」を受賞しました。

    *1高齢者住宅経営者連絡協議会主催。全国の尊厳ある暮らしへの取り組みに優れた「高齢者住宅」に贈られる。

  • 「みんなの認知症情報学会*2(第2回年次大会)」のポスター発表で優秀発表賞を受賞

    『認知症ケアメソッド』を活用し、その方らしさの発揮と笑顔につながった「まどか深大寺」とベネッセ シニア・介護研究所の取り組みが高く評価されました。

    *2一般社団法人みんなの認知症情報学会主催。誰もが自分らしく心豊かに生活できる環境の実現に向け、優れた研究や実践活動に贈られる。