ベネッセの介護25年の深化

「私流」でやるから、楽しくできる 思うがままを実現するメソッド

omougamama

認知症の方は、短期記憶能力の低下などもあるため、「やりたい」と言ったら「すぐにやってみる」ことが大切になります。ここでは、『認知症ケアメソッド』を使った働きかけが「その方らしさ」の発揮につながった、成功事例のひとつをご紹介します。

数十秒から数十分という短時間保持される記憶のこと。認知症の方は、新しいことを覚えにくく、 今日の日付が分からない、同じことを何度も聞くといった症状が見られるようになる。

A様は、ご入居前、ご主人が老々介護をされていました。しかし、ご主人も要支援となってご自宅での生活に限界を感じられ、「メディカル・リハビリホームくらら武蔵境」へご入居。はじめは、認知症の症状のひとつである帰宅願望が表れ、家に帰ろうとホーム内を歩き続け、疲れから転倒を繰り返されていました。

強い帰宅願望が表れていたA様

  • 96歳、女性(要介護2)
  • 病歴:アルツハイマー型認知症
  • 移動は歩行器を使用
ご入居の経緯
  • 物忘れが多くなり、日付の感覚もなくなって、お金の管理や書類の仕分け、料理が困難に。
  • 老々介護をされていたご主人も要支援となり、ご自宅での生活に限界を感じられるように。
  • 娘様の働きかけで「メディカル・リハビリホームくらら武蔵境」へご入居。
ご入居後の様子
  • 認知症の症状と思われる帰宅願望が強く表れ、スタッフに「お願いだから、家に帰してください」と訴えられる。
  • 家に帰ろうと何時間もホーム内を歩き続け、疲れから転倒を繰り返される状況。

『認知症ケアメソッド』を使った取り組みを開始

「A様らしさ」を探すため、これまでの暮らしやこだわりを知り、ご家族様にもホームでのご様子や気づきを共有しながら、日々の発言・行動などから人生すべてに遡って深掘りしていきます。

そのなかで、ある日、A様の「じいさん(ご主人)のごはんを作らないと」という発言から、家に帰りたい理由にスタッフが気づき、ご主人のために料理を作っていただくことを目標にした取り組みをしてはどうかと考えました。

日常生活におけるアセスメント

まず、料理で必要になる動作を分解し、一つひとつの動作が行えるかどうかを日常生活のなかでスタッフが確認していきます。合わせて、どれくらいの頻度でお声がけをすれば、記憶が維持できるかも確認します。

料理で必要な
動作の一例
確認したポイント
立つ
  • 歩行器がなくても、立つことはできる
包丁を握る
  • 握力がある
  • 手を使った細かい作業ができる
腕を振る
  • 椅子に座れば、しっかり腕を動かすことができる
手順を
理解する
  • スタッフの質問に正しくお答えいただける

リスクと向き合い、環境を整える

料理で使用するのが「包丁」と「火」です。私たちは、使用する際に起こりうる危険と対応策、A様のお身体の状態に応じたお手伝いの入り方について検討を重ねました。

起こりうる
危険
『リスクと向き合う』方法の一例
包丁で
指を切る
可能性がある
  • 服薬しているお薬により、血が止まりにくいといった影響がないことを確認
火を使う際、
火傷をする
可能性がある
  • 万が一、ケガや火傷をした場合の応急処置についてスタッフ全員が看護職員による研修を受講
  • 火を使う際は、すぐ近くに家庭用消火器を準備
  • 火を使う際、スタッフがA様を見守る位置や方法について全員で共有

料理の流れのなかでのアセスメント

ここまでの状況をご家族様にお伝えし、A様の料理の取り組みについてリスクも含めてご相談したところ、ご家族様がご理解くださり、「やってみては」というお声をいただけました。そこで、最初の挑戦として、料理の流れのなかでアセスメントを行うことをご提案。ご家族様のご承諾を得て、スタッフがしっかりサポートしながら簡単な料理に取り組まれました。

挑戦の当日、料理の流れのなかでA様の実際の動作を、一つひとつ丁寧に確認。その結果、「包丁」も「火」も使っていただけると判断することができました。

「人に料理を作る」を支えるかかわりを実践

料理のなかでのアセスメントにおけるA様のご様子をご家族様にご報告。改めて取り組みのご相談をし、快諾を得ることができました。そこで、A様の目的は、「じいさんのために」料理をすることだったので、できあがったら一緒に食べることを目指し、取り組みを実践しました。

かかわりから「自発支援®」につながるサイクルへ

  • 「今、すぐにやる」
  • 「包丁も渡す」
  • 「なじみのものをちりばめる」
  • 「思う存分、思うがまま」
  • 「一緒に喜ぶ」

ご近所付き合いのはじまり

他のご入居者様とお食事も

  • 1「今、すぐにやる」

    認知症の方は、特に「すぐにやってみる」ことが大切。後で料理をした事実を忘れてしまっても、そのとき感じた気持ちは残るからです。

  • 2「包丁も渡す」

    料理をはじめ、スタッフが見守るなかで包丁をお渡しすると、慣れた手つきで材料をカット。

  • 3「なじみのものをちりばめる」

    鍋に水を入れるときに、A様が混乱したご様子に。スタッフは、使い慣れた「いつもの鍋」に目分量で水を入れていたのでは、と考え、ご家族様にご自宅からお持ちいただいた鍋を置きました。すると、その鍋を選ばれて水を入れられ、スムーズにコンロにかけられました。

  • 4「思う存分、思うがまま」

    お味噌汁にたくさんの塩を入れられるのがA様流のやり方。思うがままに作っていただくことが大切です。 周囲は少し驚いたものの、味わい深くおいしいお味噌汁ができあがりました。

  • 5「一緒に喜ぶ」

    できあがったお味噌汁を、スタッフが一緒に食べながらお話しすると笑顔に。ご自宅のように「作って一緒に食べる」「おいしいといわれる」ことで、「誰かの役に立てた」というお気持ちを感じていただけたようです。料理された後は、リビングで気持ちよさそうに居眠りをされるお姿がありました。

その後も時々、料理をされるようになったA様は、ほかのご入居者様にも振るまわれるようになりました。それをきっかけに、以前は少なかったほかのご入居者様とのかかわり合いが増えていきました。今は、A様の想いを知り、一緒に活動されるお仲間もいらっしゃいます。

A様は、ホームで「ご近所付き合い」が始まり、社会との接点が生まれたことで、ご自分らしい生活を過ごされるようになりました。「帰りたい」という発言は、ほとんどなくなり、「幸せよ―」というお声に変わったのです。
「誰かのために生きていく」という人生の実現は、想像を超える相乗効果を生み、たくさんの笑顔へつながります。

介護はお一人おひとりのご事情で異なりますので「必ずこういう状態に改善できます」と、お約束することまでは難しいのが実情です。また、リスクを伴うと考えられる取り組みは、そのリスクを完全に拭い去ることは困難なものの、向き合う方法を考えてご家族様に説明し、ご理解いただけた場合のみ進めることを基本としております。
私たちは、これからもお一人おひとりに深く寄りそい、皆様の介護にまつわるお悩みの解決を目指してまいります。

ご紹介しているエピソードは、個々のご入居者様の事例です。また、ご提供できるサービスやケアの内容は、ご入居者様お一人おひとりの心身の状態やホームの状況によって異なりますので、個別にご相談くださいますようお願い申し上げます。

※「自発支援®」とは、高齢者の自発的な活動を支援する株式会社ベネッセスタイルケアのサービスの名称です。