エピソード
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認知症のお母様にホームの入居を切り出せなくて
2014年01月06日
娘様は、認知症が疑われるお母様のご様子を目の当たりにし、このまま一人暮らしを続けていくことは難しいと感じていました。老人ホームで安心して暮らして欲しい。でも、どうしたらお母様に理解してもらえるのか。苦悩の日々が続いていました―。
私(お客様相談担当S)がご相談を受けた事例を紹介いたします。
愛するお母様に認知症の疑いが…
娘様はお母様の近くにお住まいで、お仕事の合間をみては、ショッピングやランチをご一緒にされていました。弟様は遠方にお住まいのため、長女である娘様がお母様の生活をお一人で支えている状況でした。ある日、娘様がお母様のマンションを訪ねた際、ご近所の方からお母様の行動が最近おかしいことを聞かされました。また、同じ頃から毎日1時間以上、お母様からの電話が続くようになりました。同じ話が何度も繰り返され、娘様も認知症を疑うようになりました。心配された娘様は、かかりつけのお医者様に相談しましたが、「認知症でない」と言われ、不安ばかりが募っていたようです。
私が老人ホームへの入居のご相談を受けた際、娘様のお話から、お母様を思う深い愛情と親子の強いつながりを感じ、お母様に「心配だから一人暮らしはやめて、老人ホームへの入居を検討しましょう」とは、なかなか言い出せない葛藤が見受けられました。
お母様が安心できるプランを一緒に検討
そこで私は、娘様にひとつのプランをご提案し、『私が娘様の友人で、お母様とお話をしたがっている』という内容をお母様に伝えていただきました。お母様は、初対面にもかかわらず、とてもにこやかに私をお招きくださり、若かりし頃のことや趣味などをたくさんお話ししてくださいました。私は、お母様にとって少しでも『顔見知りの安心できる人』になれるよう、時間をみつけてはお母様のマンションを訪問させていただきました。お母様は、いつでも私を温かく迎えてくださり、楽しくお話ししてくださいました。広いお部屋で優雅に暮らされているお母様でしたが、お話の内容には時折混乱もあり、心細い思いもされていらっしゃるようでした。
その間、平行して、娘様とはホームの体験入居へ向けての具体的な内容を相談していました。娘様がお母様のお気に入りのランチへ連れ出され、その帰りに『お母様のマンションに急な工事が入ることになり、戻られても生活が難しい』という理由で、ホームにお越しいただくことになりました。
勇気をスタッフ全員でサポート
数日後、予定通りランチに行かれた娘様から「今からホームに向かいます」というご連絡を受けました。私はお母様をホームでお迎えし、ホームをホテルだと思ってお過ごしいただけるよう、お話ししました。しかし、その後の数日間、お母様は「私はなぜ、ここにいなければならないのか?」と、ホームにいる皆に頻繁に尋ねられました。また、お散歩の途中でタクシーに乗り、ご自宅へ帰ろうとされる場面も数回ありました。1週間の体験入居は、娘様にとっては針のむしろだったと思います。『お母さんのことが本当に心配。だからホームにこのまま居てほしい』と、きちんと伝えなければならないと分かっていても、どうしても切り出す勇気が出ないご様子でした。
ある日、娘様がホームにお越しになった際、ちょうど往診にいらしたお医者様に今までの経緯をご相談されました。話を聞かれたお医者様は、すぐにお母様を呼ばれ、娘様の代わりに心情を直接お話しくださいました。それを聞かれて涙ぐまれた娘様の姿を、今でも私は覚えております。
その後、娘様はお母様に「ホームにこのまま居てください」と、きちんとお話しされました。ホーム長をはじめ、私たちも、覚悟を決めた娘様のお気持ちを大切に受け止め、後押しさせていただきました。
ホームが『安心できる、わが家』に
そして1ヶ月後、お母様はマンションのことを一切口にされなくなりました。同じ時期にご入居された方ともお友達になり、お二人で楽しそうに話される姿をたびたびお見受けするようになりました。2ヶ月後には、娘様と久しぶりの外食もされました。そして、お食事の後、いつものようにお母様はホームへ戻られました。少しずつですが、ホームがお母様にとって「帰る場所」「安心できる家」へと変化していったようです。お母様と娘様、お二人のすてきな笑顔を拝見し、私も思わず笑顔になりました。
幸せのお裾分けをいただきました。