エピソード
vol
79

ご本人様の意思を尊重しながら入居拒否と向き合って

2018年04月23日

認知症の症状が進み、「不安」が強くなった一人暮らしのA様。ぎりぎりまでA様の生活を支えてきたご家族様も、ついに限界に…。ご自宅への思いが強いA様に、安心して暮らしていただくためには。

私(お客様相談担当H)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

ホームへのご入居をおすすめするも、ご自宅への思いが強く…

90歳前半の女性、A様は、3年ほど前から認知症の症状があり、要介護1と認定されていました。ご主人様を亡くされ、息子様二人と娘様は独立してそれぞれ所帯をお持ちになっているため、ご自宅での介護サービスとデイサービスを利用しながらの一人暮らしです。足腰はお元気でしたし、ご家族様が定期的にサポートされて、何とかお一人でも日常生活はできている状態でした。何より、A様はご自宅をとても愛しておられました。

それでも、息子様、娘様としては、お母様が心配で、できればホームで安心して暮らしてもらいたいという思いがありました。ご自宅を愛するA様の気持ちを第一に考えて、A様がいつでも帰宅できるよう、できるだけご自宅近くのホームを希望されていました。
折しも、ご自宅の近くにベネッセの住宅型ホームがオープン。オープンイベントに、ご長男様がお見えになりました。A様の状況や、ご自宅への思いが強いこと、できる限りA様ご本人の気持ちを尊重したいことなどをうかがい、近々、A様にも見学していただくことになりました。

翌月、A様は娘様と来訪されました。ホームの雰囲気を気に入っていただけたようで、「悪くないわね」とおっしゃっていました。後日、電話で状況をうかがいながら体験利用をおすすめしたのですが、「自宅にいたいので」と断られてしまいました。

その後、ご家族様から本格的にご入居に向けての相談を受けましたが、やはりA様からは拒否されてしまいます。私たちはA様の気持ちに寄り添い、しばらく電話でご様子を確認することにしました。また、ご家族様も、これまでどおり協力し合ってA様のサポートをすることとなりました。

不安を訴える電話が激増、ご家族様では対応が困難に

ご長男様が初めてホームをお訪ねになってから半年。A様の認知症は進み、不安なお気持ちがどんどん大きくなって、日常生活にも支障をきたすようになりました。
A様は毎日のように、息子様、娘様に電話をかけ、数々の不安を訴えました。「泥棒が来る」、「詐欺に遭うのではないか」、「誰かに見張られている」など…。ご家族様は、協力してできる限りの対応をされていましたが、電話があまりにも頻繁になり、「これ以上一人暮らしは難しい」と判断され、ご入居を決められました。

居室も空いていたため、ご家族様はA様を説得してお申し込みへ。でも、「いざ」となるとA様のお気持ちは揺らぎ、「やっぱり、行かなきゃいけない?」と涙ながらに娘様に訴えられ、親子げんかになってしまうこともありました。
ご家族様は、「限界まで家族で協力してきました」と、ご入居への決心は固まっていましたが、A様のご意見を聞きながら進めたいというお気持ちでした。

最終的には、「母の気持ちを尊重したい」というご家族様の思いがA様に伝わり、ご家族様がお申し込みされてから二週間後、A様は居室を見学され、入居申込書をご自身で記入されました。その後、一週間の体験利用を経て、ご入居となりました。
何度もご家族様とお話を重ね、できることお伝えしてきた半年の間に、ご家族様が私たちを信頼してくださり、確かな信頼関係が築けたことも前進につながったと感じています。

ご家族様との信頼関係が深まって

A様の意思を尊重すること、これはご入居後も変わっていません。ご家族様には、「できることは自分でやってほしい」という思いがあり、私たちは「ホームで何ができるか」を常に考えながら、A様の暮らしづくりをお手伝いしています。
A様は、何かわからないことなどあると、お部屋が事務所に近いということもあり、すぐに事務所にご相談にみえます。このように、疑問などをご自身で解決しようと動いてくださることは、とても大切なことだと考えています。

ご家族様は「いつでも帰る家がある」ことで安心してもらえればと考えられていましたが、A様は「自宅にいるより安心」と思われたようで、ご入居後は「帰りたい」とおっしゃることも少なくなりました。

ご本人様の意思を尊重しながら、何が一番いいのかを常に考えて、私たちホームとご家族様が思いをひとつにすること。そのためには、ご家族様が私たちを信頼してくださっていることが何よりも大切であると改めて感じたエピソードでした。
page-top