エピソード
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家も会社と信じているお父様の世界に寄り添って~認知症による見当識障害~
2014年03月06日
70代でも現役で、ご自分の会社の役員をされ、毎日通勤されていたお父様。連休明けに突然出勤されなくなって、ご自宅を「会社だ」と思われるようになり―。
私(お客様相談担当N)がご相談を受けた事例を紹介いたします。
急激に進んだ認知症
お元気で介護認定も受けず、毎日会社へ通われていた70代のお父様が、急に出勤されなくなったのは、長い連休の後でした。奥様が話しかけても、ご自宅を会社だと思われて、つじつまの合わない答えが返ってきたり、夜中に一人で外に出られて転倒して帰って来られたりと、認知症と思われる症状が急激に出始めました。また、排泄を失敗されることがあっても、羞恥心からか奥様のお手伝いを拒まれるような状態でした。
奥様は、お父様から目を離すことができず、「このまま二人で生活を続けることは難しい」と感じられた息子様たちと、急いでホームへの入居検討と介護認定の申請手続きを始められました。
お父様の世界に寄り添って
お父様は、常に『会社でお仕事されている世界』の中にいらっしゃいます。ご家族様には違和感がありますが、お父様が大切にされている『ご自分が築かれた会社にいる』という世界を否定すると、お父様は現実がわからなくなって混乱され、不安になられてしまいます。私たちは、お父様に安心してお暮らしいただけるよう、ご家族様と「お父様の世界に合わせていきましょう」と相談し、ホームのスタッフたちは、お父様がいらっしゃる空間のことは『会社』、お父様をお呼びする時は『社長』とお声をかけることにしました。
息子様たちがご用意された『新しいオフィス』へ
息子様たちは、熱心にご入居の準備をされました。「ホームの居室を慣れ親しんだオフィスのようにすれば、落ち着いて過ごすことができるのではないか」と、オフィスで使われていたソファーに机、電話もご用意されました。お父様は、息子様たちに「新しいオフィスを用意しました。よいところでしょう?」とお部屋へ案内されると、ごく慣れ親しんだ場所のように自然にお部屋へ入られ、そのまま『お仕事されている世界』でのホームのご生活が始まりました。
実は、ご入居初日のお父様のお顔には、3日前の夜に一人で出かけられ、途中で転倒された際にできた大きなアザがありました。そのときは、明け方の4時頃に疲れて動けなくなっていたところを、警察の方に発見された状況でしたので、ホームの『新しいオフィス』を気に入られ、新たな生活を始められたお父様のお姿に、奥様は、「これで(主人の)安全が守れます」と、たいへん安心されたご様子でした。