エピソード
vol
33

眠ることも忘れ、認知症のお母様の介護に没頭したご長女様の葛藤と選択

2014年06月25日

認知症のお母様は失語症ではありませんが、あまりお話をされません。二人暮らしの長女様はコミュニケーションがとりづらいと感じられながらも、だからこそご自分が介護をしなくてはいけないと、すべてを背負われていました。

私(お客様相談担当H)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

介護に疲れていることにも気が付けないでいた長女様

80代で要介護2の認定を受けている認知症のお母様は、お手洗いには見守りが必要ですが、ご自分でお食事を召し上がり、杖で歩行もされます。また、失語症ではありませんが、あまりお話をされず、長女様が何かを話すとそれをオウム返しで返してこられる状況でした。

長女様は、言葉で意思表示をせずにいきなり動き出されるお母様からは、一時も目が離せないと考えられていました。また、ご自分でお母様を看たいという想いも大変に強く、24時間をお母様のために使われて介護をされていました。

しかし弟様から「母さんができることまでも、奪っているのではない?甘やかしすぎだよ」と指摘をされ、「自分は冷静になれないのですが、どうしたら良いでしょうか」とお母様と一緒にホームへご相談に来られました。

お母様は大変穏やかな方でしたので、長女様は看たいというお気持ちと共に「まだ看られる」と思い続けながらご自宅での介護を続けてこられたようでした。しかし、24時間の介護で夜も満足に眠れていないお顔には表情が無く、傍から見るととうに限界を超えているように思えました。まるで、ご自身が疲れていらっしゃる事すらも、もう感じていらっしゃらないかのような、そんなご様子に見えました。

自分が看ているくらい「ちゃんと看てほしい」という想いを受けとめながら

当時、長女様は「眠る事もできずにつらい」というお気持ちと「自分で面倒を看たい」というお気持ちの間で大きく揺れていらっしゃいました。

“介護する側”の生活を安定させることも、介護を続けていく上ではとても大切な視点です。すべてを自分だけで抱え込むのではなく、「任せても大丈夫」と安心できる環境を見つけられると、介護に対する気持ちがグッと楽になります。

長女様の場合、ご自宅からホームまで自転車で5分の距離でしたので、まずはお母様のお部屋が少し離れた場所になったという感覚で、ご自宅以外で介護することを試してみることをおすすめしました。ホームでお約束できるサービスを事前にしっかりとご説明し、結果ご納得いただいて1ヶ月後に有料ショートステイをご利用されることになりました。

有料ショートステイを繰り返して安心を実感されてからのご契約

ご入居後、お母様は環境が変わったことでの混乱もなく、穏やかにホームの生活に馴染まれて過ごされていました。

一方、どうしても心配がぬぐえない長女様は毎日通って来られましたが「せっかくホームをご利用いただいているのだから」とリビングで皆様とお過ごしいただくようにお誘いし、スタッフがお母様のお手伝いに入らせていただきました。

そのうちにホームと長女様、二人三脚での介護が始まり、長女様も「ホームは安心して任せられる場所」だと思ってくださるようになったようです。帰る前には次のご利用も決められ、その後は、1ヶ月に5回のショートステイを繰り返されました。

ショートステイ中に様子を見に来られた弟様は「母にもしもの事があった時には、姉が壊れてしまうのではないかと思っていました」とお話しくださいました。そう感じられるほど、お姉様がお母様の存在に極端に依存しているようにも見え、お姉様のためにもお母様がホームに入居をするべきだと考えられていたとのこと。

「お母さんは快適に過ごしているし、お姉さんもしっかり眠れた方が良いから、契約をしたら?」と言われ、長期でのご入居を決められました。

長期のご利用をいただいても長女様は毎日ホームへ来られます。最初はホームへ着くや否や「母に変わりはありませんか!?」とお母様の様子を確認されていた長女様ですが、時間が経つとともに「こんにちは。今日は暑いですね」などと少し世間話を挟まれるゆとりが出てきました。

やはり、本当はお母様と片時も離れたくない、自分が看たいという想いが強い長女様ですが、ご自宅から近い場所で24時間いつでも行ける場所にあることで、昼間は日々歩行練習を一緒にされるなどお母様と一緒に過ごす時間を大切にされ、夜はご自分の時間が取れる生活となったことで、表情もずいぶん柔らかくなられました。
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