エピソード
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認知症で暴言・暴力のあったお父様の心地よい時間の過ごし方を探して
2014年11月27日
「できれば自宅で最後まで面倒を見たい」 そんなお母様の想いとは裏腹に、認知症のお父様からは次第に暴言や暴力が増え、見かねた息子様がホームへの入居を提案されて…。
私(お客様相談担当S)がご相談を受けた事例を紹介いたします。
認知症のお父様の在宅介護が限界を迎え、ホームへ
80代で要介護4の頑固者お父様は、脳血管性の認知症と診断されて以降、徐々に介護するお母様への暴言や暴力が増え、夫婦喧嘩が絶えない状況となっていました。ご両親と同居されていた息子様は、「そろそろ自宅での介護は限界なのではないか」と思われ、ホームに相談にお見えになりました。息子様のお話では、お母様は「できれば自分で介護をしたい」という想いが強く、週6日のデイサービスと月10日ほどのショートステイを組み合わせて、なんとかご自宅で介護をされていたそうです。
しかし、ショートステイの施設や部屋がそのときどきで異なるせいか、ご自宅に帰る度にお父様の混乱がひどくなってしまい、ご自宅にいらっしゃる時のお母様にかかる介護の負担が段々と大きくなってきているというお話でした。
息子様は、このままではご両親どちらにとっても良くないだろうと心配され、また同時に「ご自宅で看たい」と思われるお母様のお気持ちを大切にされて、お母様の通いやすいAホームへのご入居を決められました。
お父様には「新しい場所でショートステイをするよ」とお伝えになり、後日、私たちは次のショートステイ先のスタッフとして、ホーム長とご挨拶にうかがいました。
事前のお話では、お父様はその時のご気分で暴言や暴力があるとのことでしたが、ご挨拶させていただいた時は、大変に穏やかな様子でベッドで休まれており「よろしくね」というお返事をいただき、ご入居へと話が進みました。
暴言、暴力の原因を探るために…
ホームにご入居されたお父様でしたが、やはり何かの理由で不快になると、大声を出したり、スタッフや周囲のご入居者様に手が出てしまうことがありました。幸い歩くことができず常に車椅子に座られた状態からなので、大きなけがにつながることはありませんでしたが、あまりよい状態ではありません。スタッフがもっとも頭を悩ませたのは、何をきっかけに急激にご機嫌が変わってしまうのかがわからない事でした。ご家族がいると安心をされるというわけでも、慣れたスタッフならばよいというわけでもありません。お父様にとって何が心地よく、何が不快なことなのかを察しながら対応をすることができず、大変に苦しい思いが続きました。
「行動の裏には、必ずお気持ちと理由があるはずだ」そう思いながらも、お気持ちを探る糸口が探せないスタッフは、ベネッセの中でも特に経験の長いベテラン看護職員に相談することにしました。
生活のメリハリと一人で過ごす時間の大切さ
ベテラン看護職員のアドバイスは「男性の方ですし、お一人で落ち着いた気持ちで過ごす時間を作ってさしあげたらよいのでは?」というものでした。確かに、歩けないことを忘れて車椅子から立ち上がってしまい、転倒の不安があることや、お一人にすると大きなお声を出されることも多いことから、「常に見守りができるように」とお父様にはダイニングルームに居ていただくことが増えていました。結果、お父様にとっては騒がしく落ち着かない場所に常に居ることとなり、お気持ちを不安定にさせることに繋がってしまっているのかもしれません。
そこで、お部屋に居ていただく時間、ダイニングで過ごしていただく時間、ティールームで過ごしていただく時間と、ホームでの1日の過ごし方にメリハリをつけるよう努めました。
昼寝がお好きだったお父様は、お部屋で過ごしていただく時間は、横になってゆったりと過ごされていました。このように生活のメリハリを作るようになり、しばらくしてからは何かの際に「ありがとう」と、お礼の言葉を口にされる回数が増えていき、徐々に笑顔も見られるようになりました。「お一人で過ごしていただく自分の時間を作ること」それがこんなにもお父様にとって重要なことだったと、その時になって初めて気が付く事ができました。
ほぼ毎日、多い日には1日2回ホームへ来られていたお母様と、週末に限らずホームへ来られていた息子様は、お父様が穏やかな時間を少しずつ取り戻されていることに大変安心され、喜んでいただきました。
お一人おひとりの行動には、原因が必ずあること。不安や不快の理由が何なのかを探っていくことの大切さを教えていただいた、印象的なケースです。