エピソード
vol
39

若年性認知症のお母様の「幸せ」を考えた家族の選択

2014年12月11日

認知症の影響で周囲に不快感しか示さなくなってしまったA様。ご家族様はさまざまな葛藤を抱えつつも、A様にとって心地よい生活を求め、ホームに相談に来られました。

私(お客様相談担当M)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

若年性認知症のある者でも受け入れてくれますか?

若くして認知症になられたA様を、ご家族様は長年に亘り自宅で献身的に介護されていました。A様ご自身も、時折物忘れがあるほかはいたってお元気で、かくしゃくと元気に歩かれ、お食事も人一倍召し上がられていたそうです。

ところが、1年ほど前から段々と会話での意思疎通がおぼつかなくなり、そのうちご家族様が何か話しかけても、ただ一言、不調や不快感を示す言葉しか返さない状態になってしまいました。

次第にお食事もあまり召し上がらなくなり、元気をなくされていったA様。足腰も次第に弱まり転倒の危険も高まったため、悩んだ末にご家族様は「自宅よりも人の目があるホームでの介護の方がよいのではないか」と決断されたそうです。

ただ、相談にみえたご家族様からは、ホームへの入居を強く葛藤されている様子がうかがえました。

何を話しかけても小さく激しい言葉で不快感を示されるA様が、決して本心からそうした言葉を発している訳ではないこと。自分たちを「家族」だと認識できていなかったとしても、決して「敵」だとは思っていないこと。ただ、A様ご自身がどういう言葉を発すればよいかを見つけることができず、口にしやすい言葉で答えるしか術がないのだということ。

長年そばで介護をしてきたご家族様だからこそ、A様ご自身がそうしたもどかしさを抱えられていることを強く理解されていました。だからこそ入居をすすめることでA様を傷つけてしまわないか、あるいはホームに入居した後で、そこにいる周囲の人たちにも同様の態度をとってしまわないか、ご家族様は入居検討を進めることに不安を持たれていました。

「ご本人の心地よさ」を中心に据えたホーム選び

A様の場合、ご家族様がホームにもっとも望んでいたのは「自分たちがするように大切にみてくれること」でした。「ホームに入居し、環境が変わったことで余計に混乱されてしまった」とならないように、ホームがA様にとってもご家族様にとっても安心で落ち着ける場所になるように、「A様の心地よさ」を中心に据えながらご提案をさせていただきました。

例えば、初めご家族様は自宅から近いエリアのホームを希望されていました。ですが、お元気だった頃のA様のお人柄をうかがうなかで、A様は「かわいいものやキレイなものが好き。特に小さな子どもが大好き」だということがわかりましたので、「ご自宅からは少し離れますが、小学校が近くにあり、日常生活の中で子どもの声を聞くことができるホームはいかがですか?」という提案を差し上げました。

また、入居後リラックスできる環境で生活いただくために、どうしたら心地よい環境を作れるか、何を大事にすべきで、何に配慮しなければいけないのか、という点をご家族様と一緒に検討し、生活のイメージを作っていきました。

例えばお声掛けの仕方やスキンシップの取り方一つとっても、個人によって好き嫌いがあります。毎日の生活の中でストレスを感じる機会が増えれば、それだけ攻撃的な言動は増え、ご家族様の心配や不安も増してしまいます。

そのようなことがないよう、ご家族様とA様のやりとりを見て学ばせていただいたり、A様の趣味趣向や何を好まれるかをスタッフの一人ひとりが理解できるよう、ご入居前から確認させていただきました。

入居をきっかけに穏やかな笑顔が戻る

最終的に、ご家族様は私たちからご提案させていただいた、小学校に近いホームへのご入居を決められました。

そのホームが認知症の方の受け入れ実績も豊富で、ホーム長が認知症の方に大変気に入られている様子も見ていただき、ご安心いただけたことも決め手となったようです。

今、お母様はアクティビティがあると、そばの椅子に座ってその様子をじっとご覧になって過ごされています。ホームへ入る前は所在無げに動き回られていたのが、ホームの中での居場所をご自分でみつけられて、興味を持って過ごしていらっしゃる姿を、ご家族様はうれしそうに見守られています。

A様ご家族のように、入居の提案をされることでご本人の気持ちを害してしまうのではないか、また入居後に周りに迷惑をかけてしまうのではないか、と心配される方は少なくありません。

ただ、ホームに入居されて以来、笑顔を見せる機会も増え毎日穏やかに過ごされているA様の様子を見るにつけて、ご家族様も、そして私も「あの時、入居をおすすめしてよかった」と思う次第です。
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