エピソード
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認知症のお姉様をホームスタッフと一緒に見守ることにして
2015年01月21日
認知症をお持ちのA様は、外出時に道がわからなくなり、自宅から離れた場所でたびたび警察に保護されていました。ご家族様は服薬によって認知症が回復することを期待していましたが、A様はお薬を正しく飲むことも難しく…。
私(お客様相談担当I)がご相談を受けた事例を紹介いたします。
外出すると家に帰れなくなってしまうお姉様
お仕事を退職されて以降、ご自宅で一人暮らしを続けてこられた70代のA様。まだ家事全般をご自身でこなされているA様に対し、ご家族様もお一人での生活に何も不安を持たれていませんでした。しかし、外出をしたA様が道に迷われ、なじみのない町の警察で保護されてから状況が少しずつ変わっていきました。不安に思われたご家族様がA様を病院に連れていくと、「アルツハイマー型認知症」との診断がされました。
「この時はまだ“大丈夫だろう”とたかをくくっていました」
後に入居相談をいただくことになるA様の弟様は、当時のことをこう振り返られました。
認知症の診断を受けてからもA様は家の中では何ひとつ不自由なく生活されており、A様のご自宅が弟様の仕事場が近くにあったことから、「今までよりまめに様子を見に行けばいいだろう」と思われていたそうです。また、認知症に関する知識をそれほどお持ちでなかった弟様にとっては「薬を飲んでいれば大丈夫だろう」という理解だったそうです。
ただ、認知症の方の場合、誰かが服薬の管理をしないとお薬を飲むこと自体を忘れてしまうことが多々あります。A様の場合もそうでした。
ほどなくして、弟様の元には「お姉様を迎えに来て欲しい」と遠い町の警察から連絡が届く日が相次ぎました。「このままだと何が起こるかわからない。もう一人暮らしはさせられない」と思われた弟様は、ベネッセのホームに入居のご相談にいらっしゃいました。
特に親しい姪御様から「留守にする間だけ」と説得いただき
弟様が最も悩まれていたのは、どうやってお姉様を説得するかということでした。お姉様自身は全てのことをしっかりご自分でできているおつもりでしたので、介護が必要だというお話からでは、ホームの入居には強い抵抗を示される事が容易に想像できました。そこで、弟様と相談し、A様と特に親しくされている姪御様から「一時的」ということでホームにお越しいただくお願いをしてもらうことにしました。
「1週間事務所を留守にすることになってしまって、その間は様子を見に来られないの。ごめんなさい」
「申し訳ないけれど、私たちも心配だから近くのホテルを見つけておくので、そこに泊ってもらえるかしら」
そんな姪御様のお願いに、A様は「いいわよ」と快くお返事をされましたが、記憶は短い時間で無くなってしまいます。当日にはA様のお気持ちが変わってしまうかもしれません。
ほかのご入居者様とのつながりが、生活の安寧をもたらし
ご入居当日は、A様がご自宅以外の環境に戸惑われ不安を感じることがないよう、常に同じスタッフがお声掛けするよう準備を整え、弟様と姪御様も一緒にお食事をしていただくなど、まずはホームになじんでいただくことに注力させていただきました。ご家族様はホームがお手伝いをする事で毎日の服薬がきちんとできる事に安心をされましたが、今後の病気の進行について漠然とした不安を持たれていらっしゃいました。
そこで、弟様と姪御様には、お薬が変わる度に「お薬が何にどう効くのか」を往診医から詳しく説明してもらい、今の状態や、先々の可能性について知っていただきました。お姉様と一緒に外出される時に留意すべきことについてもご説明し、少しずつ「認知症」という病気と、その対応についても知っていただきました。
実は、A様ご自身も、記憶が段々と無くなっていくことを自覚されており、その事について辛い想いをされていらっしゃることがわかってきました。
ホームにいらっしゃって間もない頃、A様は「なぜ、ここにいるの?」とのご質問を繰り返し呟かれていらっしゃいました。それは、慣れない環境に移られた心細さと、ご自身のこの先に対する不安から発せられていた言葉なのだと思われました。
しかし、その後、あるきっかけでA様からそのようなお言葉が発せられる機会が、段々と減ってきました。
それは、ほかのご入居者様との「繋がり」でした。ある時から、A様よりも10歳程度年上のご入居者様が「大丈夫よ」とお声をかけてくださるようになり、徐々にA様もホームでの生活に安心を感じていただけるようになってきました。
A様のホームでの生活はまだ始まったばかりです。
弟様と姪御様には、「お姉様の辛さも受け止めながら、お姉様にとって何がよいか、どうすべきか、ご意見をいただきながら一緒に考えさせていただきたい」とお伝えし、ご家族様やほかのご入居者様の力も借りながら、A様の居心地のよい生活を目指しています。