エピソード
vol
70

自ら入居日を決めることで、ホームでの生活が前向きに

2017年01月17日

ベネッセのセミナーに参加され、ホームへの関心をお持ちだったA様。しかし、認知症の進行を心配された甥御様が入居をすすめると、断固拒否。やがて入居に同意されたA様には、ある思いが…。

私(お客様相談担当のN)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

物盗られ妄想と、有料ショートステイの当日キャンセル

A様は90歳前半の女性。ピアノ教師をしながら、ずっと一人暮らしをされてきました。
相談にいらしたのは、A様の二人の甥御様とケアマネジャーさん。A様は要支援2でヘルパーを利用されていましたが、「物がなくなった。盗られた」とおっしゃることが頻繁になり、甥御様たちは心配されていました。

以前、A様はベネッセ主催の介護セミナーに参加されたことがあり、そのときは「いずれはね」と話されていました。甥御様たちもそのことをご存知で、入居するならここでと、ベネッセのホームをお選びになり、入居をA様に打診されていましたが、A様は「今はまだその時ではない」とバッサリ。そこで私たちは、いきなりご入居ではなく、一度有料ショートステイを試されてみては、とご提案しましたが、日程がうまく決まりませんでした。その後、何度か日程調整をしましたが、なかなか決まらないうち「やっぱりやめた」とおっしゃるような状況でした。

それから5ヶ月ほど経った8月。ケアマネジャーさんは、お盆の時期はヘルパーさんが休みになるのを心配し、もう一度A様に有料ショートステイをすすめられました。この頃、A様が「ヘルパーさんがうちの物を盗んだ」とおっしゃったことで、ヘルパーさんを交代するトラブルが起こったり、A様の介護度も上がったりと、よりお手伝いが必要な状態になってきたこともあり、A様は、有料ショートステイの利用を渋々承知されました。
ところが当日の朝、電話があり、「昨日の夜、泥棒が入って通帳がなくなったので行けません。心配するので甥たちには言わないでください」とだけおっしゃって電話はガチャッと切られてしまいました。
ケアマネジャーさんに様子を見に行っていただくと、部屋の中がグチャグチャになっていたので、警察に通報したとのことでした。

一週間後、再度有料ショートステイの予定を立てましたが、その時も「防犯のことが心配だから行かない。警察は私がボケてると思っているのでしょうね」とおっしゃってお越しいただけませんでした。

ご自身でお決めになった入居日

A様をいよいよ心配された甥御様とケアマネジャーさんは再びホームに来られて、「一人での生活は限界なので、ホームに連れてきます」とお話しになり、後日、A様とホーム長も含めて今後の話し合いをすることになりました。

話し合いの席でA様は、「何かあれば病院に行くのでここには来ません。私は老人病院で最期を迎えればいいのだ」と「ホームには行かない」の一点張りでした。

「家に一人でいたら心配でしょ。また泥棒が入るかもしれないし、何かあったらどうするの?」と甥御様。「その時はその時。私は家でしなくてはいけないことがいっぱいあるのです」とA様。すると甥御様たちは「何をするの?」といった具合で、話し合いは堂々巡り。
それでも、甥御様たちの「心配だから」という強い説得に、「私をここに押し込めるのね」と納得はされていないご様子ながら、「入居するのはいいですけど」と承諾されました。しかし同時に、「10月1日にならないと来ません」と条件を出されました。まだ9月でしたので、甥御様たちは「あと1ヶ月何するの?心配だ」とすぐに入居するようさらに説得されましたが、A様は頑としてそれ以上譲られることはありませんでした。

これまでの生活を整理する時間が必要なことも

翌日、A様から「10月1日からお願いしているAですが、お部屋をもう一度見に行ってもいいですか?」とご連絡がありました。昨日の話し合いが嘘のような前向きなご様子に、びっくりしました。
それからご入居までの1ヶ月間は私たちもお一人でのご生活が心配で、甥御様たちのお住まいが遠方だということもあり、こまめにA様にお電話して様子をおうかがいするようにしました。

そして10月1日。お約束どおりA様はホームへお越しになり、無事にご入居となりました。

後にわかったことですが、A様にはまだピアノを教えている生徒さんがいらっしゃり、9月にコンサートの約束をしていたそうです。入居の前にお仕事に区切りをつけるために、入居を1ヶ月待ってほしいと懇願されたのでした。

ホームでのご生活は、何かを盗られたとおっしゃることはなく、ムードメーカーとして他のご入居者様とも仲良く交流され、一緒にお出かけになったり、時にはピアノを弾きにご自宅へ戻られたりしながら、お元気に過ごされています。

A様は、これまで長い間お一人暮らしをされ、仕事もプライベートもご自身で決めた段取りに従って過ごされていました。ホームへのご入居も、ご自身の意思で「入居日は10月1日」と決めたことで、気持ちの切り替えができ、入居に向けて生活を整理することができたのだと思います。強くご意志を示されるときは何か理由や思いがあること、ご意思を尊重することの大切さを、改めて学ばせていただいたエピソードでした。
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