エピソード
vol
41

入居に強い拒否を示されていたお母様がホームの人気者になるまで

2015年01月21日

ご自宅での生活に不安を覚え、入居を希望していたはずのA様。ところが、ある時突然「入居なんて絶対しない」と言われ、ご家族は途方に暮れ…。

私(お客様相談担当O)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

お気持ちが変わりやすいA様の入居検討

A様のご家族様から最初にご連絡をいただいたのは、2011年に発生した東日本大震災から1ヶ月ほど経った頃。娘様ご夫婦と同居をされていたA様でしたが、ご夫婦とも日中は仕事で外出をされることが多く、余震も続く中で1日の大半をお一人で過ごすことの不安からA様ご自身が入居を希望されているとのお話でした。

当時、日常の生活には問題なく、お買い物もお一人で出かけられていたA様。ただ、アルツハイマー型認知症の診断を受けており、その影響からかマイナス思考に陥ったり、気分が変わりやすくなることがありました。

当初はご自分から「ホームに入りたい」とおっしゃっていたA様でしたが、ご家族様との検討が進み、見学にお越しいただこうというタイミングで突然気持ちが変わられてしまい、「私は絶対に施設なんかには入りません」と強い拒否を示されてしまいました。その時はご家族様も「嫌がっている母を無理やり入居させることはできない」と判断され、引き続きご自宅で生活を続けられることを選ばれました。

ご家族様から再びご連絡があったのは、それから数年後のことでした。

ご家族様からは、時間の経過とともにA様の認知症は進行しており、介護度が上がったこと。以前に別の施設のショートステイを利用したがうまくいかず、A様の施設に対する抵抗感が増してしまったこと。現在はデイサービスの利用とヘルパーを組み合わせて何とか自宅で生活をしているが、感情的にぶつかってしまうことがあり、娘様は精神的に追い込まれてしまっていること。などの現状をお話いただき、「これ以上、自宅で介護をしていくのは限界です…」と改めてホームを利用されたい旨をお伝えいただきました。

短期の利用でホームでの生活に慣れる

ご相談にいらっしゃった娘様が心配されていたのは、認知症が進行したA様をホームに預けることができるのか、また施設利用に対して否定的なA様が入居を了承してくれるのか、ということでした。

それに対し、まずホームは認知症があることを理由にご入居をお断りすることはないということ、また入居に向けては時間をかけてでもA様に慣れていただきながらじっくり進めていきましょうという旨をお伝えするとご家族様は大変安心されたようでした。

認知症が進んだとはいえ、まだまだお身体はお元気なA様。ご家族様は、ご自宅での介護が苦しくなってきてはいたものの、本格的な入居は「動けなくなったら」というお考えで、まずはご自宅以外での生活に慣れることを希望されました。

A様のようにホームに抵抗感を感じる方の場合、まずは短期間ホームを利用いただき、ホームでの生活がどのようなものかを感じていただくことから始めることが多々あります。ただ、短期利用の回数を重ねてもご自宅との環境の違いになかなか慣れることができない方もいらっしゃいます。

A様も、初めのうちはホームの環境に慣れることができませんでした。穏やかに過ごされていた5分後に「なぜ私はここにいるの。帰ります」と声を荒げられたこともありました。

それでも、A様の場合は利用の回数を重ねるごとに徐々にホームの環境に慣れ、同世代の方と楽しそうにおしゃべりをされるなど、ホームでの生活を有意義に過ごしていただけることも増えていきました。

ホーム入居により生活に笑顔と笑い声が戻る

そんな折、お住まいの近くに、新たにベネッセのホームができることになりました。娘様は短期利用いただいているホームに満足しつつも、より通いやすく利便性の良いそのホームへの入居を強く希望されました。

「母がショートステイでホームを利用するようになってから、『こんなにゆっくり過ごしていいのか』と思うほど穏やかな生活ができているんです。自分で看なければ、という気持ちもありましたが、母にとっても、私たち家族にとっても、入居をした方がよいのではないかと思ったんです」

ご自宅では自分からまったく動かなかったA様がホームでは活動的に動かれている。また、ご家族様には感情的な言い方をするA様が、ほかのご入居者様やスタッフと楽しそうに談笑されている。そんな光景を見た上でのお言葉だったかと思います。

その後は、本格的なご入居に向けて話が進みました。急な環境変化に戸惑われないよう、これまで通われていたデイサービスは引き続き利用し(※)、ホームでは日常生活のお手伝いとお声掛けに重点を置いた生活プラン(ケアプラン)を組んでご入居いただくこととなりました。

現在、A様はホームにすっかりなじみ、「帰りたい」と言われることは一切なく穏やかに生活を送っていただいています。もともとお話好きだったA様は、ほかのご入居者様からもスタッフからも慕われる人気者として、常にホーム内に明るい花を咲かせています。

またご入居後、A様の体調が優れないことを察知したスタッフが急ぎ病院にお連れし、軽い脳梗塞が発見されるという出来事がありました。ご家族様からは「自宅では気づかずに大事に至っていたかもしれない。本当にありがとう」と、ホームでの生活により一層の安心を感じていただくこともできました。

ホームのご入居をきっかけに、ご本人様もご家族様も安心して穏やかな生活を送れるようになった、そんなケースでした。

※A様のご入居されたホームは介護保険を利用して在宅のサービスも受けられる「住宅型有料老人ホーム」であったため、介護保険の支給限度額内でホームでの生活支援とデイサービスの利用を行うことができました。
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