エピソード
vol
49

認知症による暴言・暴力に悩むご家族様の支えになる

2015年04月10日

認知症をお持ちのA様は、日々の生活への不満からご家族に不平・不満をおっしゃるようになり、次第にそれは暴力行為にまで発展。困ったご家族様は助けを求めるためホームにお越しになりました。

私(お客様相談担当T)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

ご家族への不満を暴言・暴力という形で表現され

以前、別のお客様相談担当が紹介したお客様とのエピソードの中に「vol.36/
認知症で暴言・暴力のあったお父様の心地よい時間の過ごし方を探して」という話がありました。

このケースでは、お父様がお一人で過ごす時間を尊重し、生活のペースを安定させることで、認知症による暴言や暴力行為を落ち着けることができた事例として紹介されています。

今回私がご紹介するA様も、認知症を患い、周囲の方への不信感が暴言や暴力となって表に出てしまった方です。A様の場合、先の事例とは逆で、ホームご入居後に集団生活の中でほかのご入居者様との関わりを増やし、生活に落ち着きが戻られた方です。

A様は当時70歳代と比較的若く、介護度も要介護1と決して高くありませんでした。ただ、数年前から認知症の症状があり、時間の経過とともに少しずつ症状が悪化し、遂には毎日の服薬が必要になったそうです。

認知症の方によくある症状ですが、些細なことですぐにご気分を害され、その原因を自分以外の周囲の人間に負うような傾向がA様には見られました。そして、真っ先にA様の怒りの対象となったのは、普段自宅で生活を共にされるご家族様でした。

何か自分の意にそぐわないことがあるたび、A様はご家族様に向けて否定的な言葉を吐かれるようになり、時には手をあげられたり、つねったりといった暴力行為に及ぶようになったとのことです。

そうしたやり取りが繰り返されるうち、A様のご家族様に対する不信感は高まり、遂にはコミュニケーションを取ることすら拒まれるようになってしまいました。ご家族様もまた、A様の行動が認知症によるものだとわかってはいても、次第にストレスがたまり、これ以上自宅での介護は難しいとのお考えに至ったとのことでした。

ご入居後も暴言・暴力は続き

A様の例に限らず、認知症の方の暴言や暴力から入居相談にお越しになる方は決して少なくありません。そして、そのようなケースで多くの場合でいただくのが、

「認知症で暴言や暴力に繋がるケースがあるが、受け入れてもらえるのか」

というご質問です。ベネッセのホームでは、暴力行為が著しく激しかったり、ほかのご入居者様の安全が担保できない、と判断される場合にお断りすることもありますが、基本的にはできる限り受け入れさせていただいています。

A様の場合、暴力の程度が重くなかったことと、入居への抵抗感が薄かったことから、ベネッセのホームにご入居いただくこととなりました。

ただ、ご入居後間もない頃は、ご自宅の時と同様ご自身の意にそぐわないことがあるたびに声を荒げられたり、手をあげられることが多々あり、ホームのスタッフにかかる負担も決して軽くありませんでした。

帰宅願望も見られ、毎日のように玄関の前で「帰りたい」と叫ぶA様。その一方で、会いに来られたご家族様にも、厳しい言葉をかけられる姿からは、単純に自宅に帰りたいと思っている訳ではないことが推察されました。

ホームだからこそできるお手伝いにより落ち着きを取り戻され

ご入居後も不快感を過剰に行動で示していたA様でしたが、冒頭に記載した通り、その後ホームの生活に慣れるにつれて、だんだんと落ち着きを取り戻され、声を荒げられる機会も減るようになりました。

もちろん、認知症の薬は継続的に調整されたものを服薬されていましたので、それがうまくいったという側面もあるかと思います。ただ同時に、リビングで過ごしていただく時間を意図的に増やし、ほかのご入居者様と毎日顔を合わせられる中で、ホームを「自分の場所」として認識されたことが大きかったかと思います。

A様がご入居されたホームは、認知症の方の対応に特に力を入れており、居室ごとに決められた担当がつぶさに変化を読み取ったり、時間帯によって関わり方を変えるなどして、A様にとって少しでも居心地のよい場所を作るようにした成果が出たのかもしれません。

暴言や暴力があらわれている場合、ご家族での介護は必要以上に苦しいものになることがままあります。非難の対象となるご家族様はもちろんのこと、ご本人様自身も自分の意図がうまく伝わらない事への苛立ちを感じたり、家族に裏切られたような心持ちになるのだと思います。

「家族だからこそできること」があるのと同時に、「家族でないからこそできること」が介護にはあるのではないかと思います。認知症に限らず、少しでも介護の事で悩まれていたり、不安をお持ちの方は、躊躇せずに私たちに相談していただきたい。

以前よりも少し穏やかになったA様の顔つきを拝見するにつけ、そんな想いを強くします。
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