エピソード
51
認知症で悩まれていたご夫婦が、それぞれの人生を取り戻すまで
2015年04月24日
「先々状況が変われば入居を検討したい」と、お元気な様子で見学に来られたA様ご夫婦。しかし奥様は少しずつ認知症の症状が出てきており、その事を心配されたA様は、ご自宅で奥様の行動に多くの制限を設けられるようになり…。
私(お客様相談担当H)がご相談を受けた事例を紹介いたします。
お元気だったA様が突然ホームに見えられて
以前から「将来の参考のために」とホームの資料を取り寄せられ、ご自宅近くのホームへご見学もしてくださっていた70代後半のA様。A様は奥様と生活されていましたが、お二人とも大変お元気で、ご自宅での生活に支障はなく、入居はあくまで「将来的な話だよ」とうかがっておりました。
そんなA様が、ある日突然、奥様を連れてホームの見学にいらっしゃったとホームから連絡がありました。ホーム長によれば、A様ご夫婦はあくまで「今もまだ元気だから、将来に向けての検討です」とおっしゃったそうですが、何のきっかけもなく急にホームにいらっしゃるものでもありません。
もしかしたら何かあったのではないか。そんな思いに駆られていると、やはり数日後、A様から「急ぎで話をしたいので、明日ホームへ行っていいですか?」とのお電話が入ったのです。
認知症が生んだご夫婦の気持ちのズレ
「実は、妻がホームに入居したいと言ってるんだ」ホームにお見えになったA様は戸惑われたような表情でそのように切り出されました。
改めて詳しくお話をうかがうと、大変にお元気そうな奥様ですが、実際はお元気な頃よりも物忘れが増え、以前はできたことが急にできなくなるということが多くなったとのこと。
お話を聞く限り、奥様は典型的な認知症の症状をお持ちでした。
しかし、A様はそれを「うつ病」だと思われていたようで、ご心配のあまり「うつ病だから、外出はしない方が良い」「うつ病だから、家事はできないだろう」と、奥様の行動を制限されるようになっていました。
奥様の場合、認知症で短期記憶が弱くなり物忘れなどは増えていましたが、ご自身としては日常の生活は問題なくこなせており、A様が行動を制限することに「私はまだまだ、できるのに…」と不満を持たれていたようです。
また一方で、家事などがうまくできなくなっているのも事実でした。だんだんと家の事がおっくうになっていたタイミングでホームを見学されたことで、家事の煩雑さから解放された生活に魅力を感じられ、一気に入居へのご希望が高まったご様子です。
病気や費用など先々に対する不安や、行動を制限していることへの罪悪感、そして何より奥様と離れて生活されることへの寂しさなどさまざまなお気持ちが相まって葛藤されているA様を尻目に、奥様はホームでの新しい生活に胸を踊らせていらっしゃいました。
「今すぐにでも入りたい」というご様子の奥様でしたが、A様のお気持ちも慮って、まずは1週間の体験利用から始めていただくようお伝えし、夫婦離れて暮らす生活がどんなものなのかを体感していただくことになりました。
お互いの自由を取り戻して
体験利用の初日、奥様はとてもうれしそうな笑顔でホームへお越しになりました。ご入居早々、時間を気にせずたくさんのご友人とお電話をされたり、またご友人をホームに招いて歓談されたりと、ご自宅での生活の窮屈さから解放されたことで、毎日をいきいきと過ごされるようになりました。
認知症が顕著になって以来、ご自宅に繋ぎとめられ、少しずつご自分でできることが少なくなっていった奥様にとって、ホームへの入居が、ご自身の人生を再び動かしていく感覚を取り戻すきっかけになったようです。
また、入居前は大変悩まれていたA様の表情にも次第に変化が表れるようになりました。
A様は、ホームへ来られるたびに「携帯電話を持たせているのに、いつも繋がらない」と呆れ顔をされつつも、ご自宅では見られなかった奥様のいきいきとしたお姿に安心されていらっしゃいました。
そして、「実は僕も友人を招いて、自宅で食事会をしてね。その時間がとても楽しいんだよ」と、まるで秘密を打ち明ける子どものようにうれしそうな表情でお話をしてくださいました。
一見お元気そうに見えながらも「私、わからないのよ」が口癖になっていらっしゃった奥様。A様は常に気を張り、自宅にご友人を招くような余裕もないほど奥様を心配されていらっしゃったことが痛いほど伝わってきました。
ご自宅が近いため、奥様もA様もホームとご自宅を行き来しながら、お互いに今までの交友関係を再開され、有意義に生活されるようになりました。その時間をもっと大切にしたいと、体験利用の終了間際に長期契約のお申し出をいただきました。
ホームへの入居をきっかけに、「夫婦」として共に歩む新たな形を見つけられたA様ご夫婦。お互いに生活の幅が広がり、充実した時間を過ごされるお姿が印象的でした。