エピソード
vol
76

歩く力を取り戻し、ホームでの生活を謳歌

2018年04月16日

転倒から腰椎を圧迫骨折し、歩けなくなってしまったお母様。家での介護をしていくことが困難になった息子様は、「せめて回復するまで…」と。

私(お客様相談担当M)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

突然の転倒で要介護に

A様のご家族はA様、奥様、娘様、お母様の四人暮らし。
90歳代のお母様は認知症もなく、ご家族様と共に元気に生活されていました。
ところがある日、お母様が家の中で転倒し、腰椎圧迫骨折でご入院。
介護を必要とする状態になりました。

A様ご夫婦は共働きで、娘様はご結婚が決まっており、退院後にお母様のお世話をすることは困難。お母様ご自身は「一人でも大丈夫」とおっしゃっていますが、腰に痛みを抱え、歩くことが不自由な状態のお母様を家の中に一人残しておく訳にはいきません。
せめて十分に回復するまでの間、リハビリと生活の世話をしてもらえるところはないだろうかと、A様ご夫婦でご相談に来られました。

A様からは、お母様が退院後に家に帰りたいと希望していること、ご家族様としても状態が落ち着いたら家に戻って欲しいという想いがあるというお話をいただきました。
そこで私たちがご提案したのは、2~3ヶ月の間、在宅復帰を目指し、ホームで“生活リハビリ”をしながら、お母様の回復を図るということでした。

生活リハビリとは、介護職員の付き添いのもと、日常生活に必要となる動作をできるだけご自身の力で行っていただき、機能訓練指導員による評価を受けながら身体機能の回復を図っていくものです。
リハビリ病院や介護老人保健施設のようなリハビリは90歳代のお母様には負担が大き過ぎるだろうということもあり、A様はこの提案に納得してくださいました。

A様ご夫婦にとってお母様を老人ホームに入居させることには葛藤があったと思いますが、ホーム内をご覧になり、明るい生活環境に安心されたようです。A様が当初イメージしていた「老人ホーム」は、飾り気のない、冷たい施設だったのでしょう。ご見学中は、「ホテルみたい」と、何度も驚かれていました。お帰りの際は「早速、母親に話してみるよ」と、ホームの資料を持っていかれました。

お気持ちを変えた体験利用

ご家族様とも相談し、まずは、お母様にお会いするため、ケアマネジャーとサービス提供責任者と私の3名でご入院先の病院を訪問することになりました。
事前にホームの資料を見ていただき、「こんな雰囲気ならいいかもね」とおっしゃっていたということでしたが、お母様には老人ホームは、「姥捨山」という印象もあり、やはり入居することへの抵抗と不安はあったようです。
実際にお会いしてみると、お母様は緊張したご様子で、表情もこわばっているように見えました。
しかし、2~3ヶ月で家に帰れるということと、息子たちに迷惑はかけたくないというお気持ちもあり、最終的には「よろしくお願いします」とおっしゃっていただきました。

お母様の入居の意志は確認できましたが、本当にここで暮らしていけるかどうか、私たちはお母様ご自身に見極めてほしいと考えました。そこで、ご入居前にまずは一週間の体験利用をしていただくことに。体験利用中はスタッフもお母様の様子をみながら、積極的に関わりを持たせていただきました。また、お食事もとても気に入っていただき、「おいしいわねぇ」と、毎食楽しそうに召し上がっていらっしゃいました。

体験利用中のある晩、A様が仕事帰りにお母様を訪ねて来られ、しばらくの間、お二人でお話しされていました。帰り際、A様が事務所に立ち寄り、「ちょっと相談があるのだけど」と一言。
「いや、母と話してみたのだけど、ここの生活が気に入ったらしくて、ずっといたいって言うんだよね。2~3ヶ月のつもりだったけど、予定していた契約形態を長期契約に変えてもらえないかな」
お母様にホームの生活を気に入ってもらえるだろうかと、ずっと気を揉んでいただけに、これは私たちにとってはうれしい驚きでした。

目標をもって、歩く力を取り戻す

ホームを気に入っていただいたことはありがたいことですが、実際に入居されてからが本番。
本格的にホームでの生活をスタートさせる上では、お母様にどのような目標を持っていただくかが重要になってきます。
入院中のお母様を訪問した際にお聞きしたのですが、入居の1ヶ月後に孫娘様の結婚式があり、その結婚式にはA様ご夫婦も孫娘様もお母様に出席してほしいと望んでおり、お母様自身にも出席したいという気持ちがある、とのこと。
それならば、「まずは、結婚式に向け、歩行器で歩けるようになることを目標にしていただこう」と考えました。骨折して以来、長距離の移動はずっと車椅子を使っておられましたが、もともとご自宅にいらした頃はご自分で歩いていらっしゃった方。結婚式への出席という目標があれば、回復へのモチベーションも高まるだろうと思ったのです。

それからの1ヶ月間、お母様はご自身の足で歩けるように本当にがんばられました。食堂への移動なども最初は車椅子を使っていましたが、腰の痛みが少しずつ和らいできてからは、機能訓練指導員やスタッフのサポートのもと歩行器で行き来するようになりました。
食事だけでもお部屋とダイニングを1日に3往復はしますし、それ以外にもトイレや朝の体操、午後のアクティビティなどで移動するため、歩行器を使って歩く機会は多々あります。そのような生活の中、お母様は徐々に動けるようになっていきました。
何より大きかったのは、お母様の「孫娘の結婚式に参加する」という前向きな気持ちでした。スタッフの「結婚式楽しみですね、歩けるようにがんばりましょうね」というお声かけに、いつもにこにこと笑顔で応じてくださいました。

そして1ヶ月後、お母様は歩行器で歩き、無事に孫娘様の結婚式に出席。ご家族様もお母様もたいへん喜ばれ、記念の写真もたくさん撮るなど、思い出に残るひとときを過ごされました。

ホームでの暮らしをいきいきと謳歌する毎日

最初は入居することに戸惑いもあったお母様ですが、今ではすっかりホームでの生活を満喫していらっしゃいます。
毎朝の体操や午後のアクティビティには欠かさず参加されていますし、定期的にお友達をホームに招いてお食事を楽しんだりもしています。
ご家族様も定期的に訪ねて来られ、ご一緒にお出かけされることもしばしばあります。孫娘様ご夫婦もたまにいらっしゃり、食事をしながら楽しくお話されています。

お母様は現在もリハビリを続けていらっしゃいます。
安心のために歩行器は引き続き使われていますが、ときどき歩行器から離れて歩くなど、お身体は驚くほど元気になられました。
今の目標は「ひ孫を抱く」こと。
そのときが来るまで元気なお身体でいましょうねと、スタッフも一丸となってお母様を支えています。

私たちは、最初は「家に帰ること」を目標に、途中からは「ホームで生活を続けること」を前提に、とにかくご家族様とお母様のご希望に沿えるよう、目標の変化に応じたサポートを心がけてきました。
A様からは、「母がここまで元気になれたのはホームのみなさんのおかげ。家に戻っていたらここまではできなかった。本当に安心して任せられる」とうれしいお言葉をいただいています。
ご家族様にもご入居者様にも、安心かつ充実した生活を送ってもらうことが私たちの使命。その想いをより一層強くした経験でした。
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