エピソード
72
ご夫婦での穏やかな暮らしを取り戻したホームでの日々
2017年05月09日
お義父様の転倒をきっかけに、A様は義理のご両親のお世話をすることに。介護の継続に限界を感じるA様、自宅での暮らしを継続したいご両親やご長男、それぞれの想いが導き出した結論は…。
私(お客様相談担当M)がご相談を受けた事例を紹介いたします。
行き詰まった老々介護
A様の義理のご両親は共に80代で二人暮らし。二人の息子様がおり、A様はご次男の奥様にあたります。お義母様は要介護3で歩行が困難であり、認知症もある状態。要支援のお義父様がお義母様の面倒を見つつ、家のことを片付けているという、いわゆる老々介護の生活環境でした。
そんな中、お義父様が転倒し、入院することに。
お義父様が回復するまでの間、A様ご夫婦やお義兄様が交代で実家に泊まり込み、お義母様のお世話をすることになりました。
やがてお義父様の退院が近づいてきましたが、体力が低下し、すぐに元の生活に戻ることはできない状態だったため、いったん、介護老人保健施設に入り体力の回復を図ることになりました。
入居をめぐる、それぞれの想い
A様がご相談に来られたのはそんなときでした。A様によると、義理のご両親の生活はお義父様が怪我をする前から限界に近づいてきており、お義父様が介護老人保健施設から出たとしても、実家でご両親二人での生活を継続するのは難しいだろうとのことでした。
ご長男やA様ご夫婦が毎日交代で泊まりにいくわけにもいかないので、ご両親一緒にホームへの入居を検討したいとのご希望でした。
しかし、詳しくお話を聞いてみると、ご両親はご自宅で生活を続けたいという気持ちが強く、またご長男も「父が回復しているので、入居の必要はないのではないか」とおっしゃっているとのこと。
というのも、お義父様はこれまでにも介護老人保健施設への出入りを繰り返していたということがあり、ご長男としては今回も大丈夫だろうというお考えのようでした。
A様としてはお嫁さんという立場上、入居を強くすすめることができず、ご家族様の中で話がまとまっていないという状況。
私たちとしても、まずはご家族様の間で入居のご意思がはっきりしないうちは準備を進めることもできません。
とはいえ、お義父様が介護老人保健施設を出なければいけない期限は刻一刻と迫ってきていました。
夫婦二人の暮らしを取り戻すために
「とりあえず、一旦どこかに入居させてもらえないだろうか」。ご長男からご連絡があったのは、お義父様が介護老人保健施設を出なければならない直前のことでした。
いよいよ家に戻らなければならないという段になって、さすがにご長男も現実を受け止め、ご両親の入居を心に決められたようでした。
私たちは急遽、お義父様に会いに行き、お義父様、ご家族様のご要望をお聞きました。
そして、一旦、お義父様に入居していただき、その後、ご両親お二人の入居する部屋を準備することになりました。
お二人の部屋を準備している間、お義父様はホームで生活リズムを整えられるようになり、スタッフの手厚い介護もあってか、「こういう生活もいいのでは」と思う反面、「家で奥さんの面倒をみたい」という気持ちもありました。
一方、お義母様は「家で生活できる」と入居を拒絶。
しかしながら、ご自宅での生活範囲はリビングのみで、活動レベルは以前にも増して落ちている状態でした。
お義父様がご自宅に戻られたとしても、お二人での生活が無理なことは明らかです。ご次男もA様にも負担がかかっていて、そろそろお義母様の一人暮らしは厳しいかなと感じていました。
話し合いの結果、お義母様も、お義父様と一緒に暮らしたいという思いもあり、渋々ながら入居を了承されました。
実はお義父様が入院されてから、お義母様は一度もお義父様と会っていませんでした。
「二人で暮らすためなら、やむを得ない」そんな想いの中でお義母様は入居を了承してくださったのではないでしょうか。
穏やかな暮らしを取り戻した最後の日々
入居してからの生活は穏やかなものとなりました。当初心配していたお義母様の介護拒否も一切ありませんでした。
今では体操やお茶の時間など、ホーム内のアクティビティにも参加され、表情も明るくなられました。
お義父様は、最終的には車椅子の生活となりましたが、途中までは歩行器で歩けるほど回復もされていました。
どちらかというと頑固な性格の方でしたが、ホームの生活に馴染んでいくうちに、ほがらかにコミュニケーションを取っていただけるようにもなっていました。
一方、ご家族様もご両親が入居されてから、安心してご自分たちの暮らしを送れるようになりました。
A様が悩みに悩んで、1年かかってのご両親の入居。自宅で介護をされていた時には厳しかったA様の表情も和らぎ、当時の切羽詰まっていた状況を冗談交じりに話せるようにもなられています。
残念ながら、お義父様は入居してから5ヶ月後にお亡くなりになりました。
短い期間でしたが、何より、最後の時間をご夫婦で穏やかに過ごしていただけたことは、お義父様、お義母様、ご家族様にとっても幸せなことだったのではないでしょうか。
ご本人様、ご家族様、介護を取り巻く方々の想いはさまざまです。私たちのホームはそれぞれの理想と現実のギャップを埋めて差し上げることができる場でもあるのだと再認識したエピソードです。