エピソード
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スムーズなご入居のカギは「これまでと変わらない暮らし」
2017年01月17日
在宅サービスを利用しながら「老老介護」で生活されてきた高齢のご夫婦。 奥様のケガをきっかけに、お二人での生活は難しい状態に……。 ご家族様が選ばれたのは、「今までと同じ生活スタイルを維持できるホーム」でした。
私(お客様相談担当N)がご相談を受けた事例を紹介いたします。
奥様がケガをされ、ご夫婦だけでの生活が困難に
90代のご主人様、80代後半の奥様は、それぞれ要介護3で認知症の症状もありましたが、在宅ヘルパーの介護サービスを受けながらお二人で生活されていました。ご夫婦はとても仲が良く、奥様はご主人様を、ご主人様は奥様を、それぞれ支えている気持ちで二人暮らしを続けられていました。奥様は食事の支度ができなくなり、朝夕はヘルパーさんにお願いしていましたが、ご主人様はあまり食事が進まず、お気に入りのお煎餅などをよく召し上がっていたそうです。
昼食は毎日、タクシーを呼んで行きつけの蕎麦屋へ出かけられました。ときどき、行き先や自宅住所がわからなくなることもありましたが、同じ時間に同じ店で食事されるので、お二人のことはお店もタクシー会社もよく知っていて、お昼近くになると運転手さんが近くで待機し、行き先や住所がわからなくなっても帰宅することができていました。
しかし、あるとき奥様が転んで打撲し、痛くて動けなくなったためお昼に出かけることができなくなってしまいました。このことをきっかけに、ケアマネジャーさんは「そろそろお二人だけでの生活は限界」と判断され、ベネッセにご相談いただいたのでした。
今までの生活スタイルを維持するための環境づくり
ご夫婦には息子様が二人いらっしゃいます。息子様たちは「両親だけで家にはおいておけない」とホームへの入居に前向きでしたが、ご夫婦は「まだ大丈夫」と、まったくその気はありませんでした。そんなご両親を見て、息子様たちには「無理強いはしたくない」という思いもありました。どうするべきか迷われていたところ、頼りにしているケアマネジャーさんから「お母様のケガが治るまで有料ショートステイから始めてみてはいかがですか」と提案されたことや、お母様ご本人から「痛くて仕方ないのだけれど、どこか(痛みがおさまるまで安心して落ち着けるところは)ないかしら?」と言われたことで、有料ショートステイのご利用を決められました。
ケアマネジャーさんは、ご夫婦がこれまでと同じ生活スタイルを維持できるベネッセのホームを候補として案内してくださいました。私たちは、ご家族様、ケアマネジャーさんと相談し、ご夫婦に違和感なく新生活を始めていただくために、なるべくご自宅と同じような環境になるようお部屋の準備を進めました。
ご夫婦それぞれの個室は、テレビや家具の位置、トイレまでの動線なども、ご自宅と近いものになるよう工夫しました。
また、これまでご自宅に訪問されていた医師の先生とヘルパーさんにもご協力をお願いし、今後もホームに訪問していただくことになりました。
有料ショートステイの初日、息子様たちは、ご両親に「お昼を食べに行こう」と話していつものようにタクシーを呼び、ホームに到着されました。
ご夫婦は、なぜここに来たのかわからないご様子でしたが、ホテルのような場所だと思われたようで、「お部屋に荷物を置きましょう」と居室に入っていかれました。その後、ダイニングで息子様たちと一緒にお食事をとっていただきました。
ホームへの入居にまだ納得されていないお二人の様子を心配されていた息子様たちのご希望で、まずは2泊3日の有料ショートステイから始め、心配なさそうなら延長していくという形でホームでの生活が始まりました。
「帰ります」とおっしゃっていた奥様の変化
「ケガが治るまで」と考えられていたご夫婦は、初めの一週間、毎日何度も荷物を持ってエントランスの横にある事務所にお越しになりました。奥様は「家事をしなくちゃいけないので帰ります」、「痛くないので帰ります」とおっしゃって、そのたびに私たちは「まだ痛みがあるから、もう少しここにいましょう」、「ご自宅ではご主人様のお世話も大変なので、もう少しいましょう」と繰り返しお話をしました。一方ご主人様は、奥様が一緒であれば安心しておられたので、「帰る」とおっしゃることはありませんでした。二週目、奥様は「帰ります」とはおっしゃるのですが、「どちらまでですか?」とたずねると、どこへとはわからなくなってきていました。
ある日から、「ここにいてもいいのですか?」とおっしゃるようになり、「お部屋もお食事もご用意しています」とお話しすると「そうですか。私たちの部屋はどこですか?」と言ってくださるようになりました。
「帰ります」とおっしゃる回数が減ってきたことで、長期入居も可能と息子様たちも判断され、正式にご入居となりました。
「ホームに帰る」ことがお二人の日常に
息子様たちは、「自分たちが会いに行くと、自宅に帰りたいという気持ちに戻ってしまうのでは…」と心配され、ご訪問にはとても慎重で、かかりつけの先生とも相談しながら、お二人に会うタイミングを見計らっていました。私たちは当初、お二人のご様子を週に2回はご家族様にお伝えしていました。落ち着きがみられるようになった1ヶ月を過ぎた頃からは、必要事項のご連絡やイベントのお知らせ程度になっていきました。毎日のご様子を知っている私たちは、「お会いになっても大丈夫ですよ」とお話ししていましたが、慎重な息子様たちはなかなかご訪問されなかったので、イベント時などに撮影した写真を送ってお二人の様子をお伝えしていました。
有料ショートステイから7ヶ月、息子様たちがご訪問されました。ご夫婦は「よく来てくれたね」と笑顔で迎えられ、お帰りになる時も「また来てね」と笑顔でお見送りされました。息子様たちは、心から安心されたご様子でした。
この頃には、ヘルパーさんや訪問診療の先生も、在宅時の方ではなく、ホームのスタッフや提携医療機関の医師に移行することが自然にできていました。
ご主人様も奥様も、規則正しい生活ができていることで体調面が改善し、奥様は、他のご入居者様ともよくお話され、楽しそうに過ごされています。ご主人様は、ご自宅と同じように新聞や雑誌を隅々まで読んで静かに過ごされています。
外でのアクティビティからお帰りになって「ただいま」と笑顔が返ってきたとき、ここへ帰ることがご夫婦の日常になったことを実感しました。
ご家族様はもちろん、ケアマネジャーさん、ヘルパーさん、医師の先生など、周りの方々のご協力によって、今までと変わらないお二人の暮らしを大事にできる生活がホームで実現できたエピソードでした。
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