エピソード
vol
31

老人ホームの入居で認知症の症状が改善された事例

2014年06月12日

「嫁」の立場で常にお義母様を気遣われていたA様。ホーム見学時に「アルツハイマー型認知症」と診断されたお義母様の介護への不安を家族で共有し、「元気なうちに」とホームに入居したところ…。

私(お客様相談担当T)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

ホーム見学が家族で「不安」を共有するきっかけに

A様のお義母様は90歳になるころから物忘れが増え、「アルツハイマー型認知症」と診断されました。

A様はご結婚されて以来40年間お義母様と同居してこられましたが、ご自分たちも年を取ることを考えると、今後は自宅で介護を続けることが難しくなるかもしれないと考えられていました。ある時、ポストに入ったチラシをご覧になったのをきっかけに、「まだ困ってはいないので、将来的な参考です。自分たちが探す時の参考にとも思って」と旦那様と二人でベネッセのAホームへ見学に来られました。

お話をうかがうと、お義母様は物忘れが増えて以来、いつも何かを探しながら「あれは、どこ?」「これは、どこ?」とA様にたずねられていました。また、少しずつ歩行がすり足になってきているので転倒も気になるなどのお話が次々と出てきます。将来の参考のための見学とおっしゃるA様でしたが、他方でお義母様の「アルツハイマー病」が今後どのように進行していくのかという漠然とした不安を抱えながら、「嫁」の立場で今まで以上に気を遣いながら生活をする大変さが伝わってきました。

そんなA様の様子に、旦那様は初めて「妻はこんなに不安を感じながら生活していたのか」と気付かれたそうです。また、ほかならぬA様ご自身も、言葉にして初めて介護に不安を抱えている自分に気付かれたようでした。

ご家族様の葛藤する気持ちを払しょくしたホーム見学

後日、見学のお礼でご連絡をさせていただいたところ、A様から「老人ホームのイメージが変わった」という感想をいただきました。

「ホームに義母のような元気な人が居るとは、思いませんでした。老人ホームは、一度入ると“ずっといなくてはいけない場所”だと思っていたので、“入れてしまった”という気持ちになるんじゃないか、将来いよいよのときに検討するところだろうと思っていました」という率直な気持ちを教えていただきました。

実際にホームで生活されている方の様子を見ていただき、元気に自宅と行き来をされている方がいることや、体操やアクティビティに精を出される方が多いことを知っていただいたことで、ホームが「現在の生活の延長」と感じられるようになったようです。

「元気なうちに入って同年代のお友達を作り、気軽に自宅と行き来する生活も良いのではないかと思うようになりました。そのことを義母に話したところ、義母も興味を持っています」とおっしゃられ、ほどなくしてお義母様も伴われて再度見学にいらっしゃいました。

入居の不安が、気兼ねない安心へ変わり

お義母様は見学の際、お元気な方たちがトランプをしたり、おしゃべりをして過ごされている様子をご覧になり、ご自分がホームで生活していくイメージをお持ちになれたようでした。そして、お義母様も前向きな気持ちでご入居を決められました。

それでも、いざ入居の日が迫ってくると「ひとりぼっちになってしまう」と、急に寂しい気持ちや不安が強くなられ、「いつ行くの、いつ行くの」と強く混乱されるようになりました。入居日を先延ばしにすると更に不安な時間を引き延ばしてしまうことになるため、急遽予定を早めてご入居いただくことになりました。

入居当日、お義母様は不安一杯のお顔でホームへお越しになりました。お義母様に限らず、ホームに入居される際に新しい生活に不安を感じられる方は少なくありません。特に認知症の方は少しの環境の変化でも戸惑われてしまう場合があります。

お義母様を強く不安にさせないよう、昼食はご家族様とご一緒に召しあがっていただき、そのあとのアクティビティの時間もスタッフがそばに付き添いながら参加していただくようにして、ホームの生活を始められました。

1週間ほど経つと、お義母様は、『自宅を離れてひとりぼっち』ではなく『いつも誰かが周りにいる気兼ねのない場所』だと理解されたようで、外出時に自宅に寄られても「夜はホームに帰る」とご自宅で寝ることがなくなりました。ご自宅では夜トイレに行くにも寝ている家族を起こして行くことになりますが、気兼ねなくスタッフを呼べるホームの環境に馴染まれ、安心されたのだと思います。

さらに、ホームでの生活が続くうちに、ご自宅であった「同じことを繰り返し質問される」などの認知症状がなくなりました。ご家族様とは、ホームでの食事・睡眠・おしゃべり・運動などの適度な刺激や安定した生活リズムが良かったのか、家族と一緒に生活していても感じていただろう自分ができないことが増えていくことの不安や家族から介護を受けることの気兼ねがなくなり、安心されたことが良かったのか。などとお話をしていました。

その後、ご家族様からは「母も入居当初は不安が強く、私達にも迷いがありましたけれど、お友達が作れる時に入れて楽しそうにしているし、認知症の症状が治まったようにも見えて、あの時に決めて本当に良かったです」とお話をいただきました。その後、進行した癌が見つかりましたが、「最期はホームで」とご要望をいただき、お看取りまでお手伝いをさせていただきました。
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