エピソード
vol
61

うつ病で苦しむお母様の心に希望の灯がともって

2016年01月27日

旦那様とご長男を相次いで亡くされて、うつ病を発症された70代のお母様。調子の良し悪しの大きな波が交互にやってきて、症状が重い時はベッドから起き上がることも難しくなり

私(お客様相談担当T)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

ご家族を亡くされ、立ちあがれないほどのうつ病に見舞われたお母様

お母様は定年までお仕事を勤めあげられ、これから旦那様と旅行などしようと退職後の楽しみをあれこれと考えられていました。しかしその矢先、旦那様とご長男が相次いで亡くなられ、ショックからうつ病を発症されました。

お母様は調子が悪い時は起き上がることすらできなくなり、お食事もとれなくなってしまいます。娘様お二人は遠方に住んでいらっしゃるため、お母様は専門病院へ入院せざるをえませんでした。

以降、何度か入退院をくり返されたそうですが、ご自宅でお一人で生活するのは心もとなく、かといって娘様との同居はご本人様が望まなかったとのことで、安心して生活が続けられる環境を探すのに、娘様たちは大変に苦心されていらっしゃいました。

同居が無理ならと、一度娘様ご家族のご自宅の近くにマンションを借りたこともあったそうですが、不調時のお母様は娘様たちが想像されていた以上に体調が悪く、娘様たちが家事や仕事の合間に様子を見に行く程度ではとても足りなかったそうです。

「いくら近くにいるとは言え、母につきっきりにはなれません」
「寝たきりの方に、ホームではどのような対応をされているのですか?」

お母様も伴われてベネッセのホームへ見学にいらっしゃった娘様たちは、そんな苦しい胸の内を明かしてくださいました。

寝たきりという事は、介護認定が5の方を想定する事ができます。娘様とお母様には、実際に介護5の認定を受けてホームで生活をされていらっしゃる方の生活プランを見ていただき、生活のイメージを付けていただくことで、まずはご安心いただく事ができました。

一方、お母様ご自身のご不安事をうかがうと、「何でも皆さんと一緒にやらなくてはいけないのでしょうか。10歳も年が上の方とうまくやっていけるでしょうか…」と、周囲の方の存在に気を遣われ、ほかのご入居者様の方との距離感をとても心配されていました。

ホームには、外出を頻繁にされる元気な方もいらっしゃいます。少しでもご興味があるアクティビティにはぜひご参加いただきたいと考えていますが、団体行動を強制するものはありません。

その事をお伝えすると「なら良かったわ! できない事は娘達にお願いする事になるけど、まだまだできる事は自分でやりたいしね。ここでがんばるわ!」とお母様ご自身からご入居の意思を示していただくことができました。

迷いを抱えたお母様のお気持ちに改めて寄りそって

ご入居の意思を固められて書類を入院先へと持ち帰られたお母様ですが、その書類を無くしてしまったとのご連絡がありました。改めてお送りしても、再度失くされてしまったとのご連絡が。そんなことが何度か続き、お母様のお気持ちがかなり揺れていらっしゃる事が見てとれました。

そこで、
「お母様はまだお気持ちに迷いがおありなのではないでしょうか」
「まだお若いお母様がこのままホームで生活される事について、娘様達の中で気になっていらっしゃることはございませんか?」
と、改めて娘様にお話を伺いました。

お母様は、調子が良い時は何の問題もなくお一人で生活できています。ホームをご検討いただく以上、少しでも迷いや不安をお持ちであれば、共によい方法を考えさえていただきたいと思ったのです。

ご検討にあたっては、入院先の病院から近い24時間看護師が常駐するホームがまず候補に挙がっていましたが、体調がよい時はすべての事をご自分でできるお母様には、常に看護師が居る環境が今すぐ必要とは思えません。

それよりも、普段のお元気な時の生活を中心に考えられ、お出かけ等もしやすい環境にある新規開設のホームのほうが、その時点でのお母様には合っているように思えました。

また、お母様にとっては、既に生活が始まっているホームへ後から入っていくよりも、新しいホームで皆さんよりも先に生活を作って、気持ちに余裕を持って生活される方がよいようにも思えました。

そこでその事をお伝えし、それぞれのホームでできること・できないこともお伝えしつつ、どちらがよいかをお母様に考えていただき、結果、「新しくオープンするホームの方がいいわね」と今まで以上に前向きになっていただけて、ご入居を決めていただくことができました。

将来の不安に希望の灯がともる

うつのご症状をお持ちの方は、自信を失っている事が大変多くいらっしゃいます。急な環境の変化には戸惑いも多い為、まだほかのご入居者様が少ない環境は、むしろよかったようです。

また、最初はすべての事について「お手伝いいたしましょうか?」と、お声を掛けてお手伝いをさせていただき、少しずつ慣れていただく中で、やりたいと思う意欲を取り戻していただけるように心掛けました。

お洗濯をご自分でされるようになったのをきっかけに、お母様は外出もされるようになり、しばらくすると少しふっくらされて、お化粧をしていきいきと外出される姿をお見かけする様になりました。

心配されていたほかのご入居者様との関係も、ほどよい距離感を持って上手に生活されていらっしゃいます。ご入居から1年以上が過ぎた頃、お母様と娘様がホームでお食事をされている所に遭遇しました。私を見つけた娘様は「母を入居させて貰って、本当に良かった!」と、うれしそうに抱きついて来られました

娘様のお話からは、そろそろまた調子の悪い波がやって来る頃と思われる時期ですが、今のところはまだ、その兆しはないようです。ホームのご生活でお気持ちが安定されて、ご状況が落ち着いているのかもしれません。

ただ、不調の波はいつか必ずやってきます。そしてそれは、ご家族様にとっても、何よりお母様ご自身にとってきっとつらい時間になります。

今までは、その時が来る事を少なからず恐れながら過ごされていた日々でした。

けれど、今のお母様は、以前よりも前向きな気持ちでご自身の体調と向き合えていらっしゃるようです。ご入居当初、「“何があっても大丈夫”そう思える場所にいるって、気持ちが楽になるものね」と、そうおっしゃっていただきました。

そして、そのお気持ちは日増しに強くなっている事を感じます。私にとって、お母様にそんな風に前向きになっていただけた、そのことが何にも代えがたく、大変にうれしいエピソードです。
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