エピソード
vol
15

迷いの数だけ見学を重ねて~いつ、入居を決断するか~

2014年02月19日

ご自分の中の「なんだかおかしい」という小さな変化に気がつかれ始めたお母様。それを「認めたくない気持ち」と「不安」の間で揺れ動きながら、暮らし方が変わっていきました。お母様のその変化を、娘様たちも受け止めることができず―。

私(お客様相談担当I)がご相談を受けた事例を紹介いたします。

小さな変化と、不安の始まり

80代のお母様は、要支援1の認定を受けていますが、家事や外出などに問題はなく、一人暮らしをされていました。しかし、娘様たちだけが気がつくような、小さな変化が起こり始めました。それは、「物忘れ」の症状で、お母様ご自身もその変化に気づき始め、お気持ちが不安定になられていました。心配したご長女様が通院に付き添ったところ、認知症の進行を遅らせるお薬が処方されました。娘様たちは、お母様のご自宅へ交代で通うことにし、合わせてホームへの入居検討も始め、ホームへ見学に来られました。
ご長女様は大変悩まれていて、お一人で見学に来られた後に次女様と、また別の時はお母様と、さらにまたお一人で、といった具合に何度もホームにいらっしゃいました。お母様が見学をされた時のご様子は、安定しつつも、夕方になると特に不安が強く出る状態でした。ご長女様は、「ホームで人に囲まれた生活が安心なのではないか」と思う一方で、「本人も入居を拒否しているし、日常生活は普通に送れているのだから、今、ホームへ入れるのは可哀想なのではないか」と、お気持ちが揺れ動いていらっしゃいました。
私は、認知症が進んでからご入居をされるよりも、『今』入居されたほうが、お母様にとってホームに慣れるまでのご負担が少なくてすむかもしれないと思いました。しかし、ご姉妹はホームでの生活を選択することに強い罪悪感をお持ちで、悩まれていることが強く伝わってきました。そこで、「迷いのある間は十分お考えいただき、相談したくなった時は、いつでもご連絡をください」とお伝えしました。

暮らしのご様子をひも解きながら

三カ月ほど経って、ご長女様から「認知症がさらに進み、幻覚も出てきたので、入居を検討しようと思います」とご連絡があり、ご姉妹でホームへお越しになりました。ご長女様はご近所の方に、「最近、お母様は物忘れがかなり進んでこられているようですが、大丈夫ですか?」と聞かれたそうで、認知症が進んでいることをお話しされながらも、まだやはり、「いつがベストなタイミングなのか」と、迷われるお気持ちが見受けられました。
私は、お母様の暮らしのご様子が心配になり、ご長女様、次女様それぞれにお母様のことをうかがいました。お二人のお話では、お食事、ご入浴、お着替え、お洗濯も、お母様お一人ではできていないご様子であること、1日中誰とも話さない日があったり、外出の機会も減ってきており、待ちあわせをしても会えないことがある、といったお話をうかがいました。

入居は『今』という決断

お母様の生活のご様子を娘様たちとひも解いていくことで、今のご状況の整理ができました。お母様は世間体を気にされるご性格ということなので、「ご自身の物忘れを必死で隠そうとされているのではないか」と、想像がつきました。そして、ご長女様も、お話ししていくなかで、「母が不安な気持ちのまま一人暮らしを続けるよりも、食事も入浴も安心してできて、お友達もいるホームで暮らすほうがよいのではないか」と、お気持ちを整理されたようでした。 お気持ちが固まると、とてもすっきりされたようで、その後は「少しでも早く、母にとって暮らしやすい生活を」と、準備が進んでいきました。
ご入居当日は、お母様はご入居を納得されたことをお忘れになり、不安気なご様子もありましたが、いつもそばに寄り添い、「これからは、私たちスタッフも一緒に、お母様がより安心できる居場所を作っていきます」とご長女様にお伝えし、ご安心いただいております。
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