有料老人ホームの医療体制をしっかり理解しよう
有料老人ホームの医療体制とは
看護職員と介護スタッフができる医療行為(医療的ケア)
看護職員は介護付有料老人ホームには必ず、住宅型有料老人ホームでもホームによっては配置されているところがあり、日常的な健康管理や服薬管理、緊急時の医療機関への連絡などを担当します。
有料老人ホームは医療施設ではないため医療行為は制限されていますが、医師の指示によって看護職員による一部の医療行為(医療的ケア)が許されています。看護職員ができる行為としては、インスリン注射、床ずれの処置、たんの吸引、中心静脈栄養、胃ろうなどの経管栄養、在宅酸素、人工呼吸器の管理などがありますが、すべてのホームで対応しているわけではありません。なお、看護職員が24時間常勤している場合は、夜間のたんの吸引、朝食前のインスリン注射、体調に合わせた経管栄養摂取などに対応できるため、より手厚い介護が受けられます。
看護職員に可能な医療行為の中には、介護スタッフに許されているものがあります。胃ろうなどの経管栄養、たんの吸引の2種類で、研修を受けることが条件になっていますが、実際に対応できるホームはまだ少ないようです。
ホームのリハビリ体制
介護付有料老人ホームでは、入居者ができるだけ長く自立した生活を送ることができるように、身体機能の維持を図るリハビリ(機能回復訓練)プログラムが用意されています。担当するのは理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの資格を持つ機能訓練指導員(リハビリ専門員)で、1人以上の配置が義務付けられています。
理学療法士は主に歩行や立ち上がりといった基本動作の維持を図るプログラムを担当するのに対し、作業療法士は手芸や工作などの作業を通じて手先の訓練や認知機能の低下予防、精神面の活性化を図るプログラムを担当します。一方、言語聴覚士が担当するのは、主に「話す」「聞く」「食べる」といった言語聴覚機能、嚥下機能の維持を図るプログラムです。
リハビリプログラムには「個別リハビリ」「集団リハビリ」がありますが、いずれも他の職種のスタッフと連携をとりながら、入居者一人ひとりに合ったプログラムが用意されます。このうち、「個別リハビリ」は機能訓練指導員によりマンツーマンで行われるもので、個別のプログラムに基づいて、例えば要介護1の人なら転倒予防のための筋力トレーニングや歩行のバランスを取る訓練を、要介護4の人なら椅子に座っての足の運動や指先の訓練などを行います。
これに対し、「集団リハビリ」は、全員で体操やゲームをして足腰の筋力低下を防いだり、一緒に歌を歌うことで嚥下機能の低下を防いだり、脳の活性化を図ったりします。個別リハビリは自分の目標達成をめざすことで意欲が高まります。一方、集団リハビリはお互いに刺激し合えることがメリットになっています。
このほか、「生活リハビリ」といって、歯を磨く、トイレに行く、食事をする、居室から食堂へ移動するといった日常動作の一つひとつをリハビリの機会として捉え、やりにくいこともできるだけ自分でやる、少し遠回りして歩く距離を延ばすなど、機能低下を防ぐ工夫をしているホームもあります。
入院が必要になったときの対応
病気やケガをした場合は、医療機関への入院が必要になります。家族で対応するのが基本ですが、ホームによっては洗濯物の交換や日用品を届けるなどの生活支援をしてくれる場合もあります。また、協力医療機関に限定して病院への搬送をしてくれるホームもあります。
退院後は、要介護度が増したとしても基本的にはホームに戻ることができます。そのため、入院中でも管理費や家賃など、一定の費用負担を継続することになります。一方、入院が長期にわたった場合には、一定期間(例えば3ヶ月など)を契約解除の条件としているところもあります。また、ホームでは対応できない医療行為が必要になった場合にも住み替えが必要になります。
ホームでの看取り体制
最近は延命治療をせず、居室で最期を迎えたいと希望する本人や家族も増えていて、看取りに対応する有料老人ホームも出てきています。ホームでの自然死(尊厳死)には、24時間看護職員が対応できること、臨終に立ち会い、死亡の確認ができる医師がいることなどが条件になります。
また、事前に看護職員、介護スタッフ、ホーム長などの施設スタッフと、本人や家族が十分に話し合い、「終末期を迎えたい場所」「延命治療の希望」「急変時の病院への搬送」などの看取りの事前確認書や「危篤状態でもホーム内で看取る」といった終末期ケアの同意書などを交わします。もし、気持ちが変わって病院で治療を希望することになった場合はそれも可能です。
ホームによっては、家族がゲストルームなどに泊まりこんで介護スタッフと一緒に看取りを行えたり、看取り専用の個室が設けられているところもあります。
※記事の内容は2021年12月時点の情報をもとに作成しています。
社会保障学者・武蔵野大学名誉教授・行政書士有資格
社会保障学者・武蔵野大学名誉教授・行政書士有資格
博士(早稲田大学)、福祉デザイン研究所所長、地域サロン「ぷらっと」主宰。
1994年、つくば国際大学教授に就任後、武蔵野大学大学院教授を歴任。専門は社会保障、高齢者福祉、地域福祉、防災福祉。シニア社会学会・世田谷区社会福祉事業団理事。