【介護の基礎知識】介護福祉士とは?職種の基本情報をわかりやすく解説
介護サービスを利用する際に、その事業所・施設に在籍する職員についても気になるところです。「介護福祉士」は介護のスペシャリストであり、ご利用者の日常生活全体をサポートしてくれる存在です。
ご利用者と接する時間も長いため、その人柄や働く姿勢で、サービスの快適さや安心感も変わります。
本記事では、利用前の検討においてヒントになるよう「介護福祉士」の役割や、評価の高い介護福祉士の特徴をわかりやすく紹介しています。
介護福祉士とは
「介護福祉士」とは、介護に関する知識や技能を身に付けている介護分野における唯一の国家資格を指します。資格を取得してはじめて「介護福祉士」を名乗ることができます。介護福祉士は介護のスペシャリストで、介護を必要とする方の日常生活をサポートしてくれる存在です。本記事では、職業としての「介護福祉士」について解説していきます。
介護福祉士はどんな人がなれるの?
介護福祉士は誰もがなれるわけではありません。以下のいずれかの条件を満たした上で国家試験に合格しなければいけません。
- 専門学校等の介護福祉士養成施設で2年以上学ぶ
- 祉系高校・福祉系特例高等学校を卒業
- 実務経験3年以上で、なおかつ介護福祉士実務者研修を修了する
つまり、一定のスキルや知識をもたないと受験すらできない、専門性の高い資格といえるでしょう。参考までに、受験に向けて、「人間の尊厳と自立」「介護の基本」「コミュニケーション技術」「生活支援技術」「社会の理解」「発達と老化の理解」「認知症の理解」「障害の理解」「こころとからだのしくみ」など12科目を習得します。
「介護士」「ホームヘルパー」との違いは?
「介護福祉士」とよく混同されるものとして、「介護士」「ホームヘルパー」があります。 ここで違いを理解しておきましょう。
「介護士」
介護福祉士を含めた「介護サービスに従事している人(介護スタッフ)の総称」として使われることがありますが、そういった資格はありません。介護福祉士の略称として、使われる場面もあるようです。
「ホームヘルパー」
「ホームヘルパー」は資格ではなく職種を指します。ホームヘルパーとして、働くためには「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」や「介護福祉士職員実務者研修(旧ホームヘルパー1級)」を受講する必要があります。また、介護福祉士の資格があればホームヘルパーとして働くことも可能です。
介護福祉士の6つの役割
介護福祉士は、介護が必要な方の日常生活を、幅広くサポートする役割を担います。ここでは、介護福祉士が介護サービスの現場でどのような役割を果たしているのか、主な6つの役割を見ていきましょう。
身体介護
「身体介護」は、身体に直接触れる介護を指します。食事、排せつ、入浴、移動、外出時のサポートなどをいい、これらを自分一人で行うのが困難な方に対して、身体能力や病気の状態に合わせた介助をします。
一方的に介助するだけでなく、声をかけたり見守ったりして、できるだけご利用者が自分で行えるようにサポートすることも、介護福祉士の役割です。やる気やできることを奪わないように配慮しつつ、自立に向けた手助けをします。
生活援助
訪問介護などでは、ご利用者のお身体に触れない「生活援助」(洗濯、掃除、食事の準備、買い物など一般的な家事の手伝い)も行います。ただし、ご家族の衣類の洗濯などは対応外です。また、ご利用者の日常生活をサポートすることが目的なので、草むしり、ペットの世話、大掃除や窓拭きといった作業は含まれません。
レクリエーション
介護サービスの種類によってさまざまですが、レクリエーションには、簡単な工作、歌や体操、季節ごとのイベント行事などがあります。レクリエーションの主な目的は、単調になりがちな介護生活の中で、楽しんで身体を動かしてもらう機会を増やすこと。身体機能の衰えを食い止めたり、ご利用者間の交流を深めたり、会話を通して笑顔になったりと、心理面でも良い効果が期待できます。介護福祉士は、これらのレクリエーションを企画し実施します。
社会活動支援
体力が低下し行動範囲が狭くなると、社会を遠く感じてしまうこともあります。そうなると、外出頻度も減って閉じこもってしまうことが増えるため、老化が進行したり、認知症が急激に進行したりする恐れもあるでしょう。
社会の一員として穏やかに生活できるよう支援するのも介護福祉士の役割のひとつです。ご利用者とご家族、近隣住民が良い関係を築けるよう、身近な方との話を取り持ったり、地域の催しやサークル活動の情報をお知らせしたりして周囲の方との交流を促します。
相談・助言
ご自身やご家族に介護が必要になったとき、何をどうすればいいのか戸惑ってしまう方も多いでしょう。介護福祉士は、ご利用者とご家族からの相談にも対応しています。
食事、排せつ、入浴の介助方法、車いすへの移乗、ベッド上での体の向きの変え方などのアドバイスを行うほか、ご利用者に合った福祉用具の紹介や使い方の説明など、自宅や施設での介護生活に不安や危険のないように支援します。
マネジメント
介護はチームで行います。皆がばらばらのやり方では良いサポートはできません。介護者(介護をする人)同士の連携がとれるように、介護福祉士は現場のリーダーとして、他の介護スタッフへアドバイスや教育を行い、各ご利用者に適した介護を目指します。
また、介護福祉士としての知識や技能を活かし、介護サービスの質を向上させることも役割のひとつと言えます。
介護福祉士と接する主な介護サービス事業所・施設
ここでは、主な介護サービス事業所・施設の特徴や介護福祉士から受けられるサービスについて解説します。
特別養護老人ホーム(特養〔介護老人福祉施設〕)
介護保険の要介護認定により原則要介護3以上で、常時介護の必要がある方を対象とした施設です。社会福祉法人などが運営し、比較的費用が安く抑えられており、長期の入院や転居がなければ終身にわたり入所できます。
介護スタッフは、24時間交代制で従事しています。介護福祉士の役割は主に、食事、入浴、排せつ介助などの身体介護を中心に見守り、レクリエーションの企画・実施などです。施設に従事している看護職員等と連携しながら、看取りの介護なども行います。
介護老人保健施設(老健)
介護保険の要介護認定により要介護1以上で、リハビリテーションを必要とする方が入所し、在宅復帰を目指すための施設です。医療法人などが運営しています。
介護スタッフは、24時間交代制で従事しています。介護福祉士の主な役割は、身体介護、レクリエーション、緊急時の対応などです。施設に従事している理学療法士等と連携しながら、リハビリの補助なども行います。
介護付き有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護)
株式会社などが運営する施設で、介護保険の要介護認定で要支援1以上から入居できるところが多いですが、施設により入居条件が異なります。費用も低価格施設から高価格施設まで幅広く、運営方針によってサービスも変わります。有料老人ホームは、「介護付き」の他に、「健康型」や「住宅型」と称する形態の有料老人ホームもあります。
介護スタッフは、24時間交代制で従事しています。介護福祉士の役割は施設の方針によって変わりますが、特別養護老人ホームと同様に、中~重度の要介護のご利用者に対して、身体介護を中心にサポートします。施設でのさまざまな行事やレクリエーションなどに携わることもあります。
訪問介護(ホームヘルプサービス)
訪問介護では、所属するホームヘルパー(訪問介護員)がご利用者のご自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行います。介護保険の要介護認定で要介護1以上の認定を受けた方を対象として、住み慣れたご自宅で生活が続けられるように支援します。
なお、訪問介護のホームヘルパーは、全員が介護職員初任者研修、介護福祉士実務者研修、介護福祉士といった公的資格を持っています(上記の施設や下記のデイサービスの介護職員の中には、無資格者も従事している場合があります)。そのような中で、介護福祉士は、ホームヘルパーと同じ身体介護、生活援助、通院介助などのサポートに加えて、サービス提供責任者と呼ばれる、より責任ある立場としてホームヘルパーのマネジメントや指導なども担うことが多いです。
デイサービス(通所介護など)
介護保険の要介護認定で要介護1以上の認定を受けると、「通所介護」「地域密着型通所介護」といったデイサービスが利用できます。「認知症対応型通所介護」は、要支援1以上から利用できます。送迎車による送り迎えがあり、日中のみご利用者がデイサービスセンターに通います。基本的に宿泊はありません。
デイサービスは、運動やレクリエーションを通して、引きこもりがちな高齢者の方の孤立解消や、心身機能を維持することを目的としています。ご自宅での長期にわたる介護では、ご家族の介護疲れも深刻な問題になりますが、デイサービスの利用は、ご利用者にとってもご家族にとってもリフレッシュできる時間になるでしょう。
介護福祉士の役割は、食事、入浴の介助やレクリエーション、体操・機能訓練、送迎などです。
頼りになる!評価の高い介護福祉士の特徴
介護福祉士は介護に関して専門的な知識、技能を持つ国家資格保持者として、介護が必要な高齢者の日常を身体的、精神的にサポートします。人の生命や生活を預かる役割なので、責任感や心配りはもちろん、スキルを伸ばす向上心も求めたいところです。
ここでは、介護現場やサービスご利用者からの「評価が高い介護福祉士の特徴」をまとめましたので、施設やサービスの検討の際に、参考にしてみてください。
自発的に動いてくれる
自ら考え動く介護福祉士は、ご利用者やご家族に積極的に声をかけ、健康状態や気分の変化を知ろうとしてくれます。反対に、いつも誰かの指示を受けてから行動している場合、ご利用者のちょっとした変化に気がつきにくく、適切にケアができない可能性も。いつも笑顔で声をかけてくれる自発的な介護福祉士の存在は安心感があります。
気持ちを汲み取ろうとしてくれる
介護サービスのご利用者には、認知症で気持ちをうまく表現できない方も多いです。また、ご家族も含め、何か懸念点があっても忙しい介護スタッフに声をかけづらいこともあるでしょう。介護の現場において、体調不良などの重要な情報を見落とすことは命に関わります。声に出さずとも、表情や態度、声のトーン、姿勢などから敏感に気持ちを汲み取ろうとしてくれたり、積極的に相談にのってくれたりする介護福祉士は頼もしい存在です。
逆に、「話を聞いてもらえない」「気持ちを理解してもらえない」と感じるような介護福祉士だった場合、ご利用者の孤独感やストレスの原因になりかねません。
役割に責任感を持っている
介護現場は生活に寄り添い支える場所でもあるので、介護福祉士として責任感があることは大切です。日々勉強して知識を増やし、ご利用者に安心安全な介護を提供する「プロ」としての意識が求められます。
責任感を持っている介護福祉士であれば、頼んだことに誠実に対応してくれる、同じ失敗を繰り返さないなど、ご利用者が過ごしやすいようご本人の想いに寄りそった対応をしてくれるはずです。
入居前に介護福祉士の様子を確認するには?
サービスの利用契約後に介護福祉士とトラブルが起きても、すぐに次の施設や事業所を見つけることは容易ではありません。特に施設の場合は引越しが続くことになるため、ご利用者やそのご家族にとってはストレスや負担が大きく、有料老人ホームの場合、すでに支払っている入居一時金の返金も心配です。
トラブルを未然に防ぐために、入居前に介護福祉士の働き方、対応方法、人柄などを確認しておけると安心です。では、確認の時期としてはどのようなタイミングがあるのでしょうか。下記に例をまとめました。
利用(入所・入居)申し込み申請前の施設見学
利用(入所・入居)申し込み申請前に、可能であれば見学をおすすめします。職員の対応やご利用者との接し方を見てみましょう。明るく笑顔で挨拶をしてくれるなど、ご利用者との接し方が優しく信頼できるようであれば安心です。ただし、見学は限られた時間なので、表面的な様子しか分からない点も念頭においておきましょう。
体験利用・体験入居
デイサービスでは日帰りでの体験利用、有料老人ホームなどでは3~7日間ほど体験入居ができるシステムがあるため、ぜひ利用してみましょう。限られた時間での見学とは異なり、数人の介護福祉士とも接したり話したり、リアルな様子を体験できたりします。また、すでに利用・入居されている方から介護スタッフの雰囲気を聞くこともできるので、実際の生活や介護スタッフとのコミュニケーションもイメージしやすいでしょう。
友人や知人からの口コミ
友人や知人に施設を利用されている方がいれば、直接スタッフの雰囲気や人間関係のトラブルなどを聞いてみましょう。信頼のある方からの情報はリアルではありますが、感じ方は人それぞれです。極端すぎる情報は偏見も入っていることを考慮して、あくまで参考程度にとどめて冷静に判断しましょう。
口コミサイトを利用して情報を得ることもできます。ただし、情報量が多すぎるとかえって混乱することもあるため、いくつか信頼できそうなサイトに絞って検索することをおすすめします。また、口コミはあくまでも書いたご本人の個人的な見解であり、情報が古い場合もあります。匿名性の高いネットでの情報はあくまで参考として判断しましょう。
ご利用者が過ごしやすい環境づくりを担う介護福祉士
介護福祉士は、介護を受ける方にとって、直接日常生活を支えてくれる身近な介護スタッフです。サービスの満足度や過ごしやすさにも関わるため、施設に入所・入居するときや訪問介護やデイサービスなどを利用するときは、そこで働く介護福祉士の人柄や役割を知っておくとよいでしょう。
優れた介護福祉士は、ご利用者にとってもご家族にとっても心強い存在です。見学や体験入居の際には、施設やサービス事業所の雰囲気を感じながら、同時に介護福祉士の様子も観察してみてください。
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)
大学病院、高齢者住宅などで看護師として勤め、大手不動産株式会社「ケアデザイン」の立ち上げに参画。支える人を支えるコンサルティングを開発実施。著書に[介護生活これで安心](小学館)「働きながら介護する〜ケアも仕事も暮らしもバランスとって〜」(技術評論社)。
自身も働きながら父親の遠距離介護を体験。介護、看護、医療サービスを利用しながら在宅での最期を看取り、多くの学び、想いを得る。現在は介護関連のコンサルティングの他、講演、執筆活動を行っている。希望は心と心を結ぶケアを広げていくこと。