【介護の基礎知識】言語聴覚士とは?役割や仕事内容を解説

公開日:2022年10月31日更新日:2023年05月27日
言語聴覚士とは

言語聴覚士は「話すこと」「聞くこと」「食べること」に関するリハビリのスペシャリストです。会話や食事について悩みを抱える人に対して、多角的な検査をして、その人に合った支援を行っていきます。

本記事では、言語聴覚士の担っている役割や、支援内容、活躍しているフィールドについても、わかりやすく解説していきます。

言語聴覚士とは

言語聴覚士は「言語聴覚士法」によって以下のように定義されています。

音声機能、言語機能又は聴覚に障害のある者についてその機能の維持向上を図るため、言語訓練その他の訓練、これに必要な検査及び助言、指導その他の援助を行うことを業とする者

※引用:厚生労働省「言語聴覚士法」(第二条)

定義の中では「話すこと」「聞くこと」にのみ言及されているように見えますが、「食べること」(摂食・嚥下)において障がいや、悩みを抱える人への支援も大切な役割です。

脳卒中や事故の後遺症による障害、先天性の障害などによって、話す・聞く(理解する)といった言語や、食べる、飲み込むといった行動に不自由さを抱えている方が対象に、症状の改善・軽減を目指します。 “Speech Language Hearing Therapist”の略でST(エスティー)と呼ばれることも多いです。

【豆知識】言語聴覚士の歴史

言語聴覚士が国家資格として認定されたのは1997年で、比較的新しい職種です。しかし、1960年代頃からすでにその必要性を訴える声は上がっていました。

1955年には、国立ろうあ者更生指導所で、聴覚言語の医学的なリハビリが開始され、その10年後には理学療法士や作業療法士が導入されています。1971年に国立聴力言語障害センターで聴覚言語障害担当の専門職が要請され、その後も何度か言語聴覚士の国家資格法制化に対する動きはありましたが、成立には至りませんでした。

そして、理学療法士や作業療法士に遅れること30余年を経て、1997年に第一回国家試験が実施。4,003名の合格者が言語聴覚士となっています。

資格取得の要件

言語聴覚士として活動するには、年1回実施される国家試験に合格し、国家資格を得なければなりません。また、国家試験の受験資格を得るためには、指定された学校や養成所で学ぶ必要があります。

国家試験においては、音声・言語・聴覚医学、言語発達障害学、失語・高次脳機能障害学など言語聴覚士としての専門分野はもちろん、基礎医学や臨床医学などから出題されます。

作業療法士と理学療法士との違い

リハビリの専門職としては、言語聴覚士の他に「作業療法士」と「理学療法士」が有名ですが 似たような名前ということもあり、その違いを理解している人も少ないのではないでしょうか。

作業療法士と理学療法士は、言語聴覚士と同じくリハビリの専門職ですが、リハビリの内容や目的がそれぞれ異なります。具体的な違いに関しては、以下の表に簡単にまとめました。

  言語聴覚士 理学療法士 作業療法士
資格 国家資格 国家資格 国家資格
支援対象 「話す」「聞く」「食べる」ことに障がいがある人 身体に障がいのある人が中心 身体だけではなく、精神の障がいのある人にも対応
支援の目的 会話や食事に関する身体機能の維持・改善 基本的動作(※1)の維持・改善 応用的動作(※2)、社会適応能力の維持・改善
治療方法 補聴器の調整、発声の仕方や食べ物の飲み込み方などの指導・訓練をします 理学療法(運動・物理療法)を用いた、基本的な動作の訓練 作業療法を用いた、基本・応用的な動作訓練、精神・心理のケア

※1:「基本的動作」:寝返り・起き上がり・座位保持・立ち上がり・立位保持・歩行などの基本的な動作。
※2:「応用的動作」:食事や入浴、トイレなど、基本的動作を組み合わせて行う動作。

なお、対象者への支援は医師の指示のもと行います。 勤務先については、いずれの職種も医療や介護、福祉、教育機関の現場で活躍しています。

作業療法士と理学療法士に関する詳細は以下の記事をご参照ください。

言語聴覚士の支援内容

言語聴覚士の活動内容としては大きく以下の4つが挙げられます。

  • 聴覚障害の調査・改善
  • 言語障害に対する訓練
  • 認知機能の障害への対応
  • その他訓練

それぞれの内容に関して、詳細を見ていきましょう。

聴覚障害の調査・改善

聴覚障害は、周囲の音や声が聞き取りづらいまたは聞こえない状態で、難聴とも呼ばれる症状です。先天性の場合と、事故や疾患、高齢化などによる後天性の場合があります。

聴覚障害が疑われる患者さんに対し、言語聴覚士は症状の種類や程度を調べるため聴覚検査や、機能評価と訓練を実施します。必要に応じて人工内耳設置後のリハビリや、補聴器のフィッティングを行います。幼児期の患者を対象に言語獲得の支援などを担う場合もあります。

言語障害に対する訓練

言語やコミュニケーションに関する障害は、代表的なものに失語症・構音障害・音声障害などがあります。

  • ●失語症
    相手の話を理解できない、言葉が出ない、言葉を間違える・発音できない、文字が読めない・理解できないといった言語に関する障害です。言語中枢に障害が起こることで生じます。
  • ●構音障害
    音を発する器官や動きに問題があり、発音がうまくできない状態を指します。言葉を理解し、伝えたい言葉もはっきりとしており、運動中枢の問題で起こる障害です。
  • ●音声障害
    声を出す機能である声帯の異常により、声の質が変わる・悪くなるといった声が出しづらくなる状態を言います。

言語障害が疑われる対象者に対し、言語聴覚士はまず、障害の程度を検査・観察し、原因究明を行います。その後、経過や状態を加味して、発話や読み書きに関する訓練を実施します。

その後、医師や看護師、作業療法士だけでなく、介護職員やケースワーカーなど福祉専門職員や教育専門職員とも連携し、チームとしてリハビリを支えていきます。

認知機能の障害への対応

認知機能とは、知覚や記憶、思考、感情、判断、学習といった社会生活に適応するにあたって必要な機能の総称です。

特に高次脳機能障害(※)は、認知機能を妨げる代表的な障害です。また、認知症の発症者数も年々増加傾向にあります。

こうした認知機能に障害を持つ方のサポートも、言語聴覚士の役割です。具体的には、認知障害に関する評価、機能訓練を行います。そして、社会生活や家庭生活へ復帰することを支援していきます。

※高次脳機能障害:脳の損傷によって、注意力や記憶力、感情のコントロールなどの能力に問題が生じ、そのために日常生活が困難になる障害。

その他の支援

接触・嚥下障害への対応

その他に言語聴覚士による支援領域として、摂食・嚥下に関する訓練があります。食べ物をうまく飲み込めず口からこぼしてしまう方や、むせてしまう方に対し、原因を調べて適切な対処をしていきます。

一般的に、飲み込みは人間の反射によってとられる行動です。しかし、脳の障害などが起きるとうまくできないケースが起こることがあります。そういった対象者に訓練を行い、改善をめざします。

小児への支援

小児を対象に活動する言語聴覚士は、「話す」「聞く」「食べる」について問題を抱える小児に対して、原因を探り、支援プログラムを考えます。

  • 「話す」への支援 : 言葉の理解や発声ができるように、リハビリを行っていきます。
  • 「聞く」への支援 : 難聴の小児に対し、聞き取りや発声の支援や、補聴器利用のサポートなども行います。
  • 「食べる」への支援 : 正しい食べ方や飲み方を身に付けられるようにリハビリを行います。

また、家族や教育機関と連携して、子どもの生活や成長にかかわる環境を整えることも言語聴覚士の役割です。

言語聴覚士の活動フィールド

言語聴覚士の活躍場所は、医療・福祉・療育など幅広い領域が存在します。その中で、今回は福祉分野を中心に、主な勤務先を紹介します。

介護老人保健施設(老健)

介護老人福祉施設(以下:老健)は、要介護度1以上の高齢者を対象とし、在宅復帰を前提にリハビリや医療、介護を行う施設です。医師の医学的管理のもとで、栄養管理や食事、入浴といった介護サービスもあわせて提供されます。

老健のなかには、デイサービスセンターや訪問リハビリを併設している施設もあります。そのため、老健に所属する言語聴覚士は、入所者以外にも、サービス利用者に対してもサービスを提供する場合のあることが特徴です。

また、2021年に改定された介護保険法※によって、リハビリ専門職として言語聴覚士・理学療法士・作業療法士を配置することによる加算も設けられました。そのため、老健における言語聴覚士の需要は増しています。

※参照:厚生労働省「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告の概要(資料2−1 資料2−2)」

主な支援内容

利用者の在宅復帰をめざして、言語障害・聴覚障害・摂食や嚥下障害などに対するリハビリを行います。

在宅復帰にあたっては、適切に栄養を摂取して体力をつけることが欠かせません。そのため、摂食・嚥下に関する訓練は重要です。病院のように嚥下内視鏡検査など専門的な検査を行える施設は少ないため、嚥下に理解がある歯科医院の往診などを導入する場合もあります。

また、コミュニケーション障害がある方に対しては、入所中に適切な言語刺激を与える配慮と工夫も行われます。

特別養護老人ホーム(特養)

特別養護老人ホーム(以下:特養)は、要介護度3以上の高齢者が対象で、基本的に終身利用を前提とした施設です。介護が必要な状態であり、自宅での生活が困難な方が入居します。

在宅復帰を目標とする老健とは異なり、ほとんどの場合生涯を施設で過ごすことになるので、リハビリだけでなく、レクリエーションなど、入居者が充実した日常生活を送れるよう、レクリエーションやイベントを企画・実施する施設も多くあります。

主な支援内容

老健と同じく、特養においても摂食・嚥下障害に対する評価と訓練を中心に行います。

例えば、食事の飲み込みが困難になっている場合、そこから誤嚥性肺炎を引き起こし亡くなるケースがあります。口腔体操や歌唱などのリハビリによって、そうしたリスクを抑えつつ、美味しく食事を摂ることができるようにサポートします。

また、特養では、入所者のなかには、脳疾患や心疾患などで認知症、失語症を抱える人も少なくありません。レクリエーションやイベントなどへ一緒に参加し、コミュニケーションをとりながら信頼関係を構築しながら、心のケアも行います。

デイサービスセンター(通所介護)

デイサービスセンターは、介護認定を受けている方が自宅から通う形でリハビリを受ける施設です。心身機能の維持・回復や、退院直後であれば在宅生活へ移行するための支援を担います。

デイサービスセンターには医師が常駐しており、看護師、理学療法士や作業療法士などと連携しながら支援が実施されます。機能訓練だけでなく食事や入浴、レクリエーション活動などを提供します。なお、介護保険も適用範囲です。

デイサービスセンターは、利用者が住み慣れた自宅で生活しながらも、社会とのつながりを感じられる場としての重要な役割があります。また、同居家族が安心して休息でき、利用者と家族が心身共に健康的な生活を送れるようにする効果もあります。

主な支援内容

機能訓練を個別や集団で実施します。嚥下やコミュニケーションに関する個別の評価と訓練、集団でのレクリエーションや口腔体操などが基本的な業務です。

また、食事評価や介助、バイタル測定、運動リハビリの助手など言語聴覚士としての直接的な仕事以外も日常的な業務として組み込まれます。

その他に、ケアマネジャーとミーティングをするなど、他職種と連携をとりながら業務をし、カルテや書類作成なども行っています。

その他のフィールド

言語聴覚士は福祉分野以外でも活躍しています。

医療機関

医療機関で働く言語聴覚士は、総合病院の回復期病棟やリハビリテーション科、リハビリテーションセンター、耳鼻咽頭科、口腔外科などさまざまな場所で活躍しています。

例えば、認知症を専門とする病院では、認知症によって引き起こされるコミュニケーション障害のリハビリを中心に行うのに対して、脳神経外科の専門病院では脳卒中から生じる失語症のリハビリを主に実施します。

また、急性期、回復期、維持期といった段階によって支援内容が異なります。対象者一人ひとりに適した方法でリハビリを行い、社会復帰をめざします。

なお、2020年度の診療報酬改定により、難病患者のリハビリにおける施設基準に言語聴覚士の配置が義務化される、呼吸器リハビリの実施に加わるなど、医療機関における言語聴覚士の活動フィールドが拡大されました。

※参照:厚生労働省「令和2年度診療報酬改定の概要」

特別支援教室などの教育機関

小児分野では、聴覚障害、声・発声の障害、飲み込みの問題、言葉の発達が遅れているといった問題を抱える子どもが支援対象です。

それぞれの障害には主に以下のような原因があるとされています。

  • 聴覚障害 : 難聴、聴覚情報処理障害
  • 声・発音の障害 : 口蓋裂、機能性構音障害
  • 飲み込みの問題 : 脳性麻痺
  • 言葉の発達遅れ : 自閉症スペクトラム障害、注意欠如・多動性障害、精神発達遅滞

言語聴覚士は検査・評価を通して問題の原因をつきとめ、適切な訓練と指導、アドバイスを行います。

話す・聞く・食べるをサポートする言語聴覚士

言語聴覚士は、話す・聞く・食べるといった機能に問題が生じている方に対して、評価や訓練を行うリハビリの専門家です。介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、デイサービスセンターといった介護施設や医療機関などで、利用者の状態と目標に応じたサービスを提供しています。

加齢や認知症によって言語や嚥下機能などに問題が生じてしまった際には、状況に応じて介護施設や医療機関を通じて言語聴覚士のサポートを受けることも可能です。家族や自分の状況としっかり向き合い、利用可能なサポートはしっかりと活用していきましょう。

監修者:川村 匡由(かわむら まさよし)
社会保障学者・武蔵野大学名誉教授・行政書士有資格
川村 匡由
監修者:川村 匡由(かわむら まさよし)
社会保障学者・武蔵野大学名誉教授・行政書士有資格  

博士(早稲田大学)、福祉デザイン研究所所長、武蔵野大学名誉教授。

1994年、つくば国際大学教授に就任後、武蔵野大学大学院教授を歴任。専門は社会保障、高齢者福祉、地域福祉、防災福祉。シニア社会学会・世田谷区社会福祉事業団理事。

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