【表比較でわかる!】特別養護老人ホーム(特養)とは?特徴・費用・申し込み方法を解説
介護施設を検討するにあたり、その費用も大切な検討要素になってきます。医療・介護・生活環境が充実した施設になると、月額数十万円というケースもよくあります。そのなかでも特別養護老人ホームは、入居条件・注意事項はあるものの、比較的費用の負担が軽いのが特徴です。
本記事では、特別養護老人ホームの特徴やサービス内容、費用、申し込み方法などを解説。入居者はもちろん、ご家族にも負担のない施設を選ぶ参考にしてください。
特別養護老人ホーム(特養)とは?
特別養護老人ホームとは、社会福祉法人や地方自治体が運営を担う介護保険施設(介護保険サービスで利用できる公的な施設)のひとつで、介護保険上は「介護老人福祉施設」といいます。費用が安いことに加えて、一度入居すると基本的には終身利用が可能な点が大きなメリットとしてあげられます。以下、有料老人ホームと比較してみましょう。
特別養護老人ホーム | 有料老人ホーム | ||
---|---|---|---|
運営母体 | 地方公共団体/社会福祉法人 | 民間企業 | |
月額費用目安 | 6~15万円 | 12~40万円 | |
入居一時金 | 不要 | 0円~1億円以上というところもある | |
入居対象者 | 原則要介護度3以上 | 自立~要介護状態まで幅広い | |
待機者 | かなり多い | 比較的少ない |
特別養護老人ホームは、費用を抑えながら介護を受けて最期まで暮らせるため、入居を希望する人が多く、現在は空き状況が少ない地域も多いようです。しかし、2015年4月の制度改正により入居条件が要介護度1から原則要介護度3以上になったことから、待機者問題は解消されつつあります。2022年の厚生労働省の発表によると、全国の特養入居待機者数は約25.3万人で、2016年の約29.5万人から少し減少しています。しかし、引き続き有料老人ホームなどよりは入居しにくいのが現状です。
特別養護老人ホーム(特養)の3つの種類
特別養護老人ホームには3種類あります。それぞれの特徴について見ていきましょう。
広域型特別養護老人ホーム
広域型特別養護老人ホームは、一般的な特別養護老人ホームの形態です。居住地に関わらず入居が可能なため、他の形態をとる特別養護老人ホームよりも、比較的早く入居できる可能性があります。ご自宅から遠くても構わないという人は検討してみましょう。
地域密着型特養
地域密着型特養は、地域に根差した規模の小さい特養のことを指し、介護保険上では「地域密着型老人福祉施設」といいます。「サテライト型」と「単独型」という2タイプに分かれます。以下それぞれの特徴を見ていきます。
サテライト型
サテライト型は、特養・老健・病院などの本体施設が移動時間20分以内の近隣にあり、設置基準や人員基準が緩和された施設です。本体施設への移動が容易なことから医務室が必須ではなく、看護師も非常勤の場合があります。
単独型
単独型は、通常の特別養護老人ホーム同様の設備・介護サービスを単独で提供します。居室や設備、介護サービスにおいては広域型と同じですが、少人数のためアットホームな雰囲気になっています。リビングを中心に居室を配置するユニット型施設が増えています。居住地に住民票を置く人しか入居できません。
地域サポート型特別養護老人ホーム
地域サポート型特別養護老人ホームは、在宅で過ごす高齢者に向けたサービスを提供するタイプです。見守りや相談などを受け付けており、要介護認定を受けていなくても、見守りを必要とする65歳以上の高齢者であれば利用できます。なお、地域サポート型特別養護老人ホームに取り組む自治体はまだまだ少ない傾向です。主に独居、高齢者夫婦世帯、家族と同居だが日中は一人になる高齢者が利用しています。
特別養護老人ホーム(特養)のサービス内容
特別養護老人ホームは、提供するサービスが法令で定められています。上記で紹介したどの施設に入居しても以下のサービスを受けることが可能です。それぞれのサービスの詳細を解説します。
生活支援サービス
特別養護老人ホームでは、身の回りの掃除や洗濯、排泄の介助、買物代行が行われています。居室や共用スペースの掃除は、施設から委託されたサービス業者が定期的に実施。クリーニングの必要性が生じた場合には、実費が生じるケースもありますが、それ以外は無料で提供されます。
しかし、入居者の中には「できる限り自身で行いたい」と申し出る人もいるようです。事前に相談して「自立支援を促す」といった意見を尊重してくれる施設なら、スタッフのサポートを受けながら行うこともできます。
食事サービス
特別養護老人ホームの食事は、栄養士が栄養バランスを考慮した上で献立を立て、提供されています。入居者の楽しみの一つである食事は、旬の食材を使ったメニューを取り入れたり、季節ごとに行事食や誕生日の特別食があったりとさまざまな工夫がされている施設も多いです。
利用者ごとの体調や嗜好に応じたメニューへ変更も可能です。食事は家庭と同じような時間帯で提供され、離床して摂るように促されます。
入浴サービス
入浴サービスは、介護保険法の規定により、最低週2回以上提供されます。入居者一人ひとりの体調に合わせて入浴介助してもらえます。たとえば寝たきりの入居者は、機械浴槽を使用して入浴させてもらえるので、家庭より安全・快適な環境です。
入浴ができない場合には、清拭により身体を清潔にしてもらいます。施設見学の際に、要介護度が重くなった場合の入浴対応を確認しておくと良いでしょう。
機能訓練
機能訓練は、主に日常生活をおくる上で必要な機能の改善・減退を防ぐ目的で提供されます。施設内で必要な食事や排泄といった動作を、できるだけ自力でできるメニューが組まれることが多くなっています。
施設によっては、理学療法士や作業療法士が関与し本格的なリハビが提供されるところもあります。専門的なリハビリを、外部の事業者に依頼して提供する施設もあります。施設見学の際には、どの程度機能訓練に重きを置いているかも確認しましょう。
レクリエーション
レクリエーションは特養入居者の楽しみのひとときで、ゲーム、カラオケ、お祭りやクリスマス会などが催されています。施設ごとにスタッフが企画するため、内容はさまざまです。ショッピングやお花見など外出イベントを開催する施設も。
外部から招いて演奏会を開催したり、近隣の保育園や小学校などの子どもたちと触れ合ったりできる施設もあります。レクリエーション・イベントの内容は忘れずにチェックしましょう。
看取り
2006年の介護報酬改定後、看取り加算ができ、徐々に看取り介護に対応する施設も増えています。医師・看護師・介護職員が協力して、本人と家族の同意を得ながら方針を決定。利用者にとっては、慣れ親しんだ施設で最期を迎えられます。
看取りの体制が整い、厚生労働大臣が定める基準を満たした場合には、「看取り加算」が追加されることは押さえておきましょう。
特別養護老人ホーム(特養)の人員配置基準
特別養護老人ホームは介護を主目的としているため、医療ケアが目的の施設と比べて医師の配置は少ない傾向です。厚生労働省が指定する人員配置基準によると、医師は「入居者の健康管理及び療養上の指導に必要な人数」とされ、非常勤でも良いと記載されています。
介護・看護職員は入居者3名に対して1人以上、機能訓練指導員(理学療法士・作業療法士などの機能訓練技能を有する国家資格保持者)は1名以上と定められていますが、生活相談員や介護職員の兼務も可とされています。
特別養護老人ホーム(特養)の設備
特別養護老人ホームの設備を確認しましょう。それぞれ基準があり、以下のように定められています。
設備 | 条件 | |
---|---|---|
居室 | 床面積10.65㎡以上/人 | |
浴室 | 介護が必要な人が入浴するのに適したものであること | |
トイレ | 居室がある階ごとに設け、ブザーを設置する | |
調理室 | 火気を使用する部分は不燃材料を用いる | |
廊下 | 幅1.8m以上にする | |
廊下および階段 | 手すりを設ける |
個室や多床室など居室タイプは施設によって異なりますが、特別養護老人ホームはこれらの基準を満たしたつくりになっているため、介護が必要な人でも安心して生活できます。
特別養護老人ホーム(特養)の入居条件
以下の方が、特別養護老人ホームの対象者です。入居条件を満たす特殊なケースについて以下でご説明します。
- 65歳以上で要介護3以上の高齢者
- 40~64歳で特定疾病が認められた要介護3以上の人
- 特例によって入居が認められた要介護1~2の人
要介護1~2の人が入居するには
要介護が3未満の人でも、在宅での介護が困難と判断された場合は特例として入居が認められます例えば次のようなケースです。
- 認知症や知的障害・精神障害などを患っており日常生活や意思疎通が困難
- 家族や同居者からの虐待が疑われる
- 一人暮らしや同居家族が病弱・高齢など、家族による支援が難しい状態
退去が必要になるケース
特別養護老人ホームでは、以下のケースが生じると入居生活を続けることができなくなり、退去を求められることがあります。
- 要介護度が軽くなった
- 体調の悪化により、長期的な医療行為・入院が必要になった
- 他の入居者や職員の迷惑になる行為が常態化した
- 入居時の提出書類に虚偽があった
- 利用料を支払わない
医療行為や入院が必要な場合は退去の可能性がある一方で、回復の見込みがない人の看取り介護に対応する施設は増える傾向です。入居前に確認をしておきましょう。
特別養護老人ホーム(特養)の費用・料金
特別養護老人ホームは、入居一時金のような初期費用は不要で、基本的な費用としては、月々の利用料のみとなります。月々の利用料の内訳としては、大きく「居住費」「食費」「施設サービス費(介護サービス加算)」の3つと個別にかかる「日常生活費」、その合計が月額利用料となります
月額利用料=①「居住費」+②「食費」+③「施設サービス費(+介護サービス加算)」+「日常生活費」
①居住費
施設の「家賃」にあたるのが居住費です。居室を利用することに対してかかる費用です。特養は有料老人ホームなどとは違い、ベッドや家具などの備品が用意されているのが特徴です。
②食費
食費は1日3食を原則として請求されます。外出や外泊で一部の食事をとらなくとも、1日分の費用を請求されることになります。
しかし、外泊や入院などで事前に一定期間食事をとらないことがわかっていれば、その期間食事を止めることができるので、問い合わせてみましょう。
居住費・食費の軽減
特養など介護保険施設においては、低所得で預貯金が一定金額以下の人の場合、「負担限度額認定」申請を行い、認定されると、補足給付を受けられ、居住費、食費が軽減されます。
負担軽減の対象となる低所得者は、下記の表のとおりです。
また、特養における居住費、食費の基準費用(日額・月額)と所得区分による負担限度額(日額・月額)は下記のようになっています。第1段階~第3段階の人の場合は、基準限度額と各負担限度額との差額が介護保険から補足給付され、実際の支払額は軽減されます。なお、第4段階に当たる人は補足給付はないため、基準費用額がかかります。
③施設サービス費
「施設サービス費用」は施設で受ける介護サービスに対してかかる費用です。要介護度や居室のタイプによって金額が決まります。
利用者の自己負担額は、原則として保険給付の対象となるサービス(施設サービス費+介護サービス加算)にかかった費用の1割、2割、3割(所得に応じて異なる)です。
特養の入居条件は「要介護度3以上」ですが、特例で要介護1~2でも入居が認められるケースもあることを踏まえて、1割負担(30日間)想定の金額を一覧にまとめたのが下記です。
■要介護度・居室別施設サービス費用自己負担額一覧(1割負担・30日間)※
多床室/従来型個室 | ユニット型個室/ユニット型個室的多床室 | ||
---|---|---|---|
要介護1 | 17,190円(573円/1日) | 19,560円(652円/1日) | |
要介護2 | 19,230円(641円/1日) | 21,600円(720円/1日) | |
要介護3 | 21,360円(712円/1日) | 23,790円(793円/1日) | |
要介護4 | 23,400円(780円/1日) | 25,860円(862円/1日) | |
要介護5 | 25,410円(847円/1日) | 27,870円(929円/1日) |
※参照:厚生労働省「介護報酬の算定構造-介護サービス」(2021年4月)
介護サービス加算とは?
介護サービス加算とは、基本サービス(入浴や食事など)にプラスして、設備や人員配置、看取りなどの施設で対応するサービスや処置に対してかかる費用となり、利用する分だけ費用が高額になります。
以下に一例をまとめました。
加算項目例 | 概要 | |
---|---|---|
初期加算 | 入居後30日までの加算 | |
サービス提供体制強化加算 | 介護福祉士の配置割合や勤続年数に応じて加算 | |
看護体制加算 | 看護職員(看護師)の人数や体制による加算 | |
介護職員処遇改善加算 | 介護職員処遇の改善のための加算 | |
外泊時費用 | 外泊時に加算(外泊は月6日が上限) | |
看取り加算 | 看取り対応時にかかる加算 |
日常生活費用
日常生活でかかる下記のようなものは、基本的にはすべて自己負担となります。
- 医療費
- 通院交通費
- 被服費
- 理美容費
- 日用品購入費
- 施設外でのレクリエーションでかかる施設入場料など
しかし、おむつ(尿取りパッドなども含)代や、クリーニングを必要としない私物の洗濯代金は施設負担となります。
特養と合わせて検討される方も多い「有料老人ホームの費用」については、下記で解説しています。
特別養護老人ホーム(特養)の入居までの流れ
特別養護老人ホームに入居するまでの流れは下記のとおりです。スムーズに手続きができるよう、以下申し込みから契約までを確認しましょう。
情報収集・申し込み
まずはホームページを見たり各施設に資料請求を行ったりして、情報を収集しましょう。複数施設を比較すると、自分が譲れない条件が明確になります。条件を満たした特別養護老人ホームが見つかれば、問い合わせをし、待機者状況も確認したうえで、施設見学をしてみましょう。
この際、申し込み書類や料金の説明があります。利用者・ご家族が納得をしたら、その後申し込みます。
入居可否判断・診療情報提供
申し込み者が複数の場合、緊急度の高い人が優先され、審査に進みます。入居判定会議で優先者から審査が行われ、入居が確定すると入居可能日が案内され、最終的な入居日が決定します。
入居には、診療情報提供書を提出する必要があるため、かかりつけ医に依頼しておきましょう。
入居前面談・契約
入居者やご家族との面談が行われます。サービス内容の確認はもちろん、食事や服薬中の薬についてなど細かな説明や確認があり、同時に利用者からの質問もできます。不安点・疑問点は解決しておきましょう。
最終確認が終わると契約を結び入居となります。入居日にスタッフとの面談や契約が行われるケースもあります。
特養は入居が難しい?待機問題とその対応
厚生労働省によると、特別養護老人ホームに入居を希望する人は、2021年現在全国に約30万人。費用が安く、終身利用ができる点から人気を集めています。スタッフの人員不足問題もあり依然地域によっては待機期間は長めのところもあります。
特養の待機期間は地域差が大きいため、臨機応変な対応が必要です。できるだけ早い入居を希望する場合には、複数の施設に申し込む、エリアを広げるなどの方法も検討しましょう。
また、待機が難しい場合には、デイサービス、ショートステイサービスなどの居宅サービス利用や、有料老人ホームや介護老人保健施設などの他の施設も検討してみましょう。
FPリフレッシュ代表、CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、住宅ローン・アドバイザー
FPリフレッシュ代表、CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、住宅ローン・アドバイザー
「高齢期の住まい」に着目し、東京や神奈川を中心に、介護付有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、240ヶ所以上を訪問。現在、「終のすみか探し」コンサルタントとして、シニア期の住まい探し・住みかえ、執筆、講演と、幅広く活動している。