【介護の基礎知識】理学療法士とは?役割や仕事内容を解説
理学療法士は、「座る」「立つ」「歩く」といった、基本的動作に関するリハビリテーション(以下:リハビリ)の専門家です。事故や病気で身体的な障害を抱える人や、身体能力の低下した高齢者に対し、理学療法を中心に支援を行います。
今回は、理学療法士の役割や、必要とされるスキル、介護現場を中心とした活動フィールドなどを解説します。
理学療法士とは
理学療法士を理解するには、「理学療法」について知っておきましょう。
そもそも「理学療法」ってなに?
理学療法は「理学療法士及び作業療法士法(第2条)」で以下のように定義されています。
身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう
※引用:厚生労働省「理学療法士及び作業療法士法」
理学療法は、体操や歩行訓練などで筋肉や関節を動かして機能の回復を図る「運動療法」と、温熱や電気刺激など物理的な刺激を与えて症状や痛みを緩和する「物理療法」という2つの手法から成ります。それらを用いながら基本的動作能力の改善、維持、低下予防を行うのが「理学療法」です。
理学療法士とは
理学療法士は、医師の指示のもと、理学療法を用いて、加齢から起こる身体機能の衰えがある方、病気や事故、怪我による身体障害のある方が、自立した日常生活を送れるように支援する医療専門職です。活動現場では“Physical Therapist”の略でPT(ピーティー)と呼ばれることも多いです。
また、理学療法士になるためには、受験資格を満たした上で国家試験に合格し、国家資格を取得する必要があります。
理学療法士の技術は、起源をたどると古代ギリシア時代までさかのぼることができます。しかし、現在のようにリハビリが一般的に認知されたのは近代になってからです。
リハビリは第一次世界大戦時にアメリカで普及し、日本には高度経済成長期に突入した1960年頃に導入されました。1963年にWHOの要請で日本初の理学療法士・作業療法士養成校が認可・開校、1965年には理学療法士および作業療法士法が施行され、職能として公的に定義されています。
その後、1966年に第一回国家試験が行われ183名が合格、日本初の理学療法士が誕生しました。また、同年7月17日には日本理学療法士協会が設立、現在でも設立の日は「理学療法士の日」として定められ、その前後一週間を「理学療法週間」として全国で啓蒙活動を行います。
資格取得の要件
理学療法士は、「理学療法士及び作業療法士法」に基づく国家資格です。国家試験の受験資格を満たすためには、指定された学校や養成所で3年以上学び、理学療法士に必要となる知識や技術を習得していなければなりません。
作業療法士(OT)との違い
理学療法士は、利用者の基本的動作の改善、維持、低下予防をめざし、自立した日常生活を送れるようにすることが目的です。そのために、筋肉や関節を動かす運動療法、電気刺激など物理的な刺激を与える物理療法を使って治療をします。
それに対して、作業療法士は応用的動作(食事・入浴・衣服の着脱など)の訓練や精神面のケアを行い、社会適応能力の改善、維持、低下予防を支援する職種です。以下に簡易表に違いをまとめています。
理学療法士 | 作業療法士 | ||
---|---|---|---|
支援対象 | 身体に障がいのある人が中心に対応 | 身体だけではなく、精神の障がいにも対応 | |
支援の目的 | 基本的動作の維持・改善 | 応用的動作、社会適応能力の維持・改善 | |
治療方法 | 理学療法(運動・物理療法)を用いた、基本的な動作の訓練 | 作業療法を用いた、基本・応用的な動作、精神・心理の訓練 | |
活動フィールド | 介護老人保険施設、福祉施設、医療機関、リハビリ施設、フィットネス関連施設など | 介護老人保険施設、福祉施設、医療機関、リハビリ施設、放課後デイサービス、就労移行支援事業所など |
なお、作業療法士に関する詳細は以下の記事をご参照ください。
理学療法士の支援内容
理学療法士の主な活動内容は以下の5つです。
- 運動療法
- 物理療法
- 治療方針・リハビリ計画の策定
- 環境整備策の提案
- 診療記録の作成
なお、理学療法士による医療系支援は医師よる指示に基づいて行われます。 それぞれの詳細について見ていきましょう。
運動療法
運動療法は、対象者の身体を動かしながら、身体機能の改善、維持、低下予防を目指します。 以下のような運動療法を行うことで、身体の柔軟性、バランス感覚(平衡性)、筋力、持久力などを強化・維持していきます。
【具体例】
- 関節可動域訓練
- 筋力増強訓練
- 基本動作訓練
- 持久力増強訓練
- 協調性訓練
その他、基本動作訓練として、「起きあがり、「寝返り」「ベッド上の移動」「座位」「立ち上がり」などの起居動作訓練と、便器や車椅子への移乗動作、車椅子移動や歩行などの移動動作訓練も行います。理学療法士は、対象者の身体の状態を評価しながら、リハビリの内容を設定します。
物理療法
物理療法とは、マッサージや電気や温熱・寒冷といった物理的な手法で刺激を与えることで、身体機能の回復や痛みの軽減を目的とした治療方法です。
【具体例】
- あんま・マッサージ
- 温熱・寒冷
- レーザー光線
- 低周波治療
- ウォーターベッド
運動療法と同じく、心身機能の回復と不快な症状の改善を図ることが目的ですが、利用者の身体へ物理的に接触することで改善をめざす点が異なります。
治療方針やリハビリ計画の策定
治療にあたっては、状態の把握、計画立案と支援内容の決定、リハビリの実施、再評価を繰り返し行っていきます。状態の評価と支援内容の決定について詳しく見ていきましょう。
対象者の状態の評価
リハビリ実施にあたり、まずは対象者の状態を検査し、確認することが不可欠です。
【具体的な確認事項】
- 基礎疾患や既往歴
- 生活状況
- 身長・体重、手足の長さ
- 心電図、筋電図、血圧
- 筋力・持久力・敏捷性・柔軟性・平衡性など運動機能
- 神経機能
検査結果から身体の状態を評価し、支援内容を決めていきます。
なお、基本的には上記のような検査を行いますが、ただ漠然と検査と評価をするだけでは意味がありません。対象者の目標に応じて検査を行うことが大切です。例えば、自宅で生活することが目的であれば、それが可能かを主軸において検査と評価をします。
支援内容の決定
対象者の状態を評価したうえで、必要な支援内容を決定します。身体能力や生活状況に合わせ、無理のないリハビリ計画を立案していきます。
計画立案に際しては、医師をはじめ看護師、言語聴覚士、作業療法士など他職種と連携をとり、治療方針や支援内容を決めることが必要です。また、直接的な治療だけでなく、患者さんの家族に対して介助方法やコミュニケーションに関する指導も行います。
支援内容決定後は、プログラムに沿って運動療法と物理療法を行い、定期的に再評価を繰り返していきます。
環境整備策の提案
住宅環境の整備に関する提案も理学療法士の支援領域です。利用者ができるだけ自立した生活を送れるようにサポートを行います。
自宅での生活を希望している場合、必要に応じてバリアフリー化やリフォーム工事などの提案を行います。具体的には、段差の解消や手すり、介護用ベッドの設置などです。また、仮に対象者の住宅環境が自立した生活を妨げるようであれば、本人や家族に指摘し改善を促すこともあります。
診療記録の作成
リハビリの実施内容や所要時間、評価、改善点などを記録します。福祉施設や訪問リハビリステーションなど、基本的にどの勤務先においても毎回のリハビリ後に作成することが必須です。
なお、この診療記録を基に、診療報酬や介護報酬の請求が実施されます。そのため、対象者のリハビリに関してだけでなく、事務処理においても重要な書類です。
理学療法士の活動フィールド
理学療法士は幅広いフィールドで活動しています。なかでも福祉に関連する職場について、施設の概要と主な支援内容を紹介します。
介護老人保健施設(老健)
介護老人保健施設(以下:老健)は、要介護度1以上の高齢者が入所し、在宅復帰を前提にサポートする施設です。医師、看護師、介護職員、リハビリの専門職員などが連携し、身体機能の維持・回復に向けたリハビリや医療、介護サービスを提供します。
理学療法士のようなリハビリ専門職員に関しては、リハビリや在宅復帰への取り組みを充実させるため、複数名の専門職員が勤務していることが一般的です。
主な仕事内容
在宅復帰を目標とし、利用者が安全で自立的な在宅生活を送るために必要な、身体機能の維持と回復に取り組みます。在宅生活では、持っている能力と機能を活かして生活を安全に送ることが重要です。そのため、訓練は、トイレでの衣服の着脱など、在宅復帰後の生活を念頭に置いて訓練が行われます。
退所の予定が立った場合には、利用者の自宅を訪問し、家屋状況の調査と生活動作の確認を行います。必要に応じて、家具の選定や配置、住宅リフォーム、生活動作への助言などを実施することも老健での活動内容のひとつです。
特別養護老人ホーム(特養)
特別養護老人ホーム(以下:特養)は、要介護度3以上の高齢者を対象に、生活全般の支援を行う高齢者施設です。入所者は在宅復帰が難しく、さまざまなサポートが必要となるため、スタッフには移乗動作や体位交換の介助量軽減、褥瘡(じょくそう)予防の体位などの知識が求められます。
また、特養ではそこで生涯を過ごす入所者も多く、入所者が毎日を楽しく安心して集団生活を送ることができるよう、生活の質を保つためのプログラムの実施なども行われています。
主な仕事内容
特養での主なリハビリは、個別リハビリと集団リハビリの2種類です。
個別リハビリでは、利用者の状態に合わせて、身体機能の維持と回復を図る訓練を実施します。集団リハビリの場合は、他者とのつながりを感じながら楽しめるようなレクリエーションやイベントを企画・実施します。
また、介護職員へ介助方法の指導をすることも理学療法士の役割のひとつです。入所者が少しでも生活しやすい環境を作るため、多職種間で連携していきます。
さらに、入所者の環境整備も大切な役割です。褥瘡のリスクを軽減するためベッドの高さを調整したり、車椅子や福祉用具を入所者の身体状況に合わせて選ぶこともあります。
デイサービスセンター(通所介護)
デイサービスセンターは、在宅で生活をする介護の支援を必要とする高齢者が、リハビリや介護を受けるために通う専門施設です。利用者が住み慣れた自宅や地域で生活を続けながら介護を受けられる点が特徴です。要支援認定を受けている人は利用できません。
機能訓練など介護サービスだけでなく、食事、入浴、レクリエーションといったさまざまな活動を行います。さらに、1日だけでなく、半日程度の短時間型デイサービスもあり、利用者の負担軽減やリハビリを重視したい場合など、ニーズに合わせた利用が可能です。
また、高齢者が社会との繋がりを感じられる場になっている点もデイサービスセンターのポイントです。外出する機会を定期的につくることで、家にこもりきりになってしまうことを予防することにもつながります。
主な仕事内容
個別機能訓練を中心に、体操やレクリエーションなどさまざまな形で利用者に関わっていきます。
デイサービスセンターの利用者は要介護1以上のため、さまざまなサポートを必要となります。支援を通して利用者の運動機能の改善・向上・維持を目指します。
また、利用者の自宅の過ごし方をもとに、必要な動作を評価することも重要な業務です。他職種だけでなく、家族ともコミュニケーションをとって情報収集を行い、利用者が生活しやすくなるよう、適宜アドバイスを行います。
利用者の生活の質を向上させるだけでなく、家族の介護負担を減らすことも理学療法士に求められる役割といえます。
訪問リハビリテーション
訪問リハビリテーションでは、理学療法士や作業療法士が介護老人保健施設や病院、クリニックなどから利用者の自宅へ派遣され、利用者の日常生活をサポートします。利用者が通うデイサービスセンターとは異なり、自宅でケアを受けることができるのが特徴です。
利用条件としては、医師に訪問リハビリテーションが必要と診断された要介護認定を受けた人が条件となります。
主な仕事内容
基本的に一人で利用者の自宅を訪問し、リハビリを行います。訪問リハビリでは、現在の生活レベルを維持することが主な目標になるため、利用者の状態に適した理学療法を実施します。
また、理学療法以外に訪問介護計画書や報告書の作成なども業務の一つです。
その他のフィールド
上記の勤務先以外にも、理学療法士はさまざまな分野で活躍しています。医療機関・一般企業・行政機関を例にあげ、詳細を見ていきましょう。
医療機関
総合病院やクリニック、診療所などで勤務をします。理学療法士が働く主な診療科は、内科・整形外科・脳神経外科・循環器科です。
病気や怪我のため医療機関を受診、入院した方に対して、日常生活に必要な動作を訓練します。例えば、歩行に関する怪我で入院している方には、退院した際に自立した生活が送れるよう、歩行訓練や日常生活動作の機能訓練などを行います。
また、入院患者の体力が落ちないようサポートすることも、理学療法士の役割です。
一般企業
専門知識を活かし、一般企業で活躍することも選択肢の一つです。
リハビリ用具や福祉用具のメーカーなどにおいて、自社製品を使用した理学療法の効果判定や、新商品の開発といった業務を担う場合もあります。また、メーカーの工場で働く従業員に対して不調の予防やケアを行ったり、ハウスメーカーでバリアフリー住宅の営業をしたりと、活躍できるフィールドはさまざまです。
行政機関
保健所や各地方自治体など行政機関で働く理学療法士もいます。行政機関で働く理学療法士は、自立して生活している地域住民の要介護度を進行させないようサポートします。
保健所の場合、リハビリ教室の開催や指導など保健所特有の業務を担当することもあります。また、地方自治体で勤務するケースでは、介護福祉課・福祉政策課・健康企画課・自立支援課などに配属される場合が多いとされています。地域住民を直接的にサポートするだけでなく、予算策定や事業の企画立案といった幅広い役割を担います。
日常生活の自立を支援する理学療法士
理学療法士は、運動療法と物理療法を用いて、立つ・座るなど基本的な動作的動作能力の維持・回復を図るリハビリの専門家です。 さまざまのフィールドで利用者が自立した日常生活を送れるよう支援を行っています。
理学療法士についての基本的な知識をもっておくことで、家族や自分が支援を受ける際に、役立つはずです。
正しい知識を身に付けて、日々の暮らしに役立てていきましょう。
社会保障学者・武蔵野大学名誉教授・行政書士有資格
社会保障学者・武蔵野大学名誉教授・行政書士有資格
博士(早稲田大学)、福祉デザイン研究所所長、武蔵野大学名誉教授。
1994年、つくば国際大学教授に就任後、武蔵野大学大学院教授を歴任。専門は社会保障、高齢者福祉、地域福祉、防災福祉。シニア社会学会・世田谷区社会福祉事業団理事。