【認知症のキホンを理解!】認知症の症状と主な原因とは?

公開日:2021年12月22日更新日:2022年09月12日
認知症の原因

「認知症」は、脳の働きの低下が原因となって引き起こされるさまざまな症状のことを指します。その症状には、主に脳の働きの低下によって起こる症状(中核症状)と、環境や体験、気質によってあらわれる症状(行動・心理症状、BPSD)があります。

脳の働きの低下による症状

脳の働きの低下による主な症状に、ひどいもの忘れ(記憶障害)があります。夕食に何を食べたのか思い出せない、昼に会った人の名前が思い出せないといったもの忘れは、歳を重ねれば多くの人が経験するものです。けれども認知症の場合は、食事をしたという体験そのものや、出かけて人に会ったという出来事自体を忘れてしまいます。記憶がすっぽりと抜けているため、食べた物や会った人の名前を教えられても思い出すことができません。
ほかに、今日の日付や今いる場所がわからなくなったり(見当識障害)、段取りよく行動することが難しくなる(実行機能障害)といった症状も出てきます。

環境や体験、気質による症状

徘徊、過食・拒食、幻覚・妄想、不潔行動などがあらわれることもあります。家の外をさまよい歩いたり、お金などを誰かに盗まれたのではないかという考えにとらわれたりして周囲を困らせます。
こうした症状は、環境の変化や治療への恐怖感などから引き起こされることが多く、環境を戻したり接し方を変えたりすることで本人の不安がやわらぎ、改善することがあります。

認知症はいろいろな症状のあつまり

脳の働きの低下による症状

すべての人にいずれかの症状があらわれる

症状 具体的な症例
記憶障害 ひどい物忘れ・新しい記憶が抜け落ちる
判断力の低下 正しい方を選べない
理解力の低下 新しいルールがのみこめない
見当識障害 時間、場所、人がわからない
実行機能障害 慣れているはずのことが段取りよくできない

環境や体験、気質による症状

約8割の人に、いずれかの症状があらわれる

症状 具体的な症例
多弁・多動 おしゃべりが止まらない・じっとしていない
暴言・暴力 突然怒り出す・攻撃的になる
排泄トラブル おもらしをする・便を手にとる
徘徊 あてもなく歩き回って帰れなくなる
食行動異常 過食・拒食・異食(食べ物以外のものを口に入れる)
昼夜逆転 夜になると興奮して大声を出す
幻覚 そこにないものが見えると言う
妄想 お金を取られたなどと思い込む

認知症の主な原因

「認知症」は、さまざまな病気により脳の働きが低下して起こる一連の症状をさす言葉で、病名ではありません。認知症の原因になる病気は、一般にはアルツハイマー病がよく知られていますが、ほかにもたくさんあります。病気によって症状のあらわれ方や治療方法などが変わるため、早めに診断を受けることが重要です。

認知症の原因になる病気

アルツハイマー病、アルツハイマー型認知症

認知症の原因として最も患者数の多い病気です。大脳の側頭葉、「海馬」が萎縮していきます。また、病理診断で「老人斑」と呼ばれる変化が見られるのも特徴です。
症状はもの忘れから始まり、次第に進行します。初期には体はよく動きますが、いずれ大脳の機能が弱くなって寝たきりになります。ただし、治療によって進行をゆるやかにすることが可能です。

レビー小体型認知症

脳の側頭葉の萎縮による物忘れ、後頭葉の萎縮や活動の低下による「生々しい幻視」が最も目立つ特徴です。
手の震えや小刻み歩行、手足のこわばり、表情がなくなるなど、パーキンソン病のような症状のほか、便秘や失禁、立ちくらみなどの自律神経症状をともなうことがあります。

前頭側頭型認知症(前頭側頭型認知症、進行性非流暢性失語、意味性認知症)

高度な判断や注意を集中させる働きを担う前頭葉や、記憶中枢のある側頭葉を中心とした脳の萎縮が特徴です。委縮する部位によって3タイプに分けられます。
①前頭側頭型認知症:本能的な行動を抑止し調整する高度な判断力や注意力、集中力が低下するため、人格障害が目立ち、性的逸脱行為、窃盗、多動、徘徊など活動性が亢進します。記憶力は初期の段階では比較的保たれています。
②進行性非流暢性失語:前頭葉にある言語中枢が委縮するため、言葉が上手にしゃべれなくなります(ろれつが回らなくなる)。徐々に進行し、話の内容は理解できます。
③意味性認知症:側頭葉にある言語中枢(辞書の役割をする)が委縮するため、言葉の意味が理解できなくなります。

血管性認知症

脳の血管が詰まったり破れたりして、脳の機能が低下します。
もの忘れなどの症状のほか、手足の震えや麻痺などの運動障害が特徴です。
症状が出たり消えたりするまだら症状も多くみられます。血管の拡張や、血液が固まらないようにする薬を使用することがあります。

甲状腺機能低下症

全身の倦怠感、気力の低下、体のむくみなどに加え、もの忘れなどの認知症の症状が見られます。甲状腺ホルモン製剤の服用で、劇的に改善します。

慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍など

これらの病気が原因の場合、手術や治療で認知症の症状が改善される可能性が高くなります。転んで頭を打ったあとなどに認知症の症状や運動麻痺があらわれたときは、慢性硬膜下血腫や硬膜外血腫が原因となっている疑いがあります。脳脊髄液がたまって脳組織を圧迫する正常圧水頭症は、認知症の症状のほか、歩行障害、失禁などの症状が出ます。

【コラム】 認知症と遺伝

認知症が遺伝するかどうか心配されているかたも多いでしょう。たしかに、現在の研究では、認知症の発症に関わる遺伝子がいくつかあることがわかっています。しかし、家族が認知症であっても発症しない人も多く、発症したとしても、それが遺伝の影響である可能性は低いものです。

例えば「アルツハイマー型認知症」では、高齢になるほど発症率が上がることから、加齢の影響が大きく遺伝の影響は少ないと考えられます。遺伝の影響があるとされる「若年性アルツハイマー病」でも、発症した人のうち遺伝が疑われるのは約1割、遺伝子の影響が明らかなのはさらにその半分程度といわれています。

認知症の発症にはいろいろな要因が複雑に関係しています。認知症予防の観点から見れば、遺伝を心配して気分が沈んでしまうのは、よくありません。毎日をいきいきと前向きに過ごし、予防に目を向けていきましょう。

※記事の内容は2021年12月時点の情報をもとに作成しています。

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監修者:杉山 孝博(すぎやま たかひろ)
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
監修者:杉山 孝博(すぎやま たかひろ)
川崎幸クリニック院長

川崎幸病院副院長を経て1998年より川崎幸病院の外来部門「川崎幸クリニック」院長に就任。公益社団法人認知症の人と家族の会全国本部副代表理事、神奈川県支部代表。認知症と介護に関する著書、講演など多数。

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