【認知症のキホン】アルツハイマー型認知症の原因や症状、介護の在り方について

公開日:2021年12月22日更新日:2023年02月13日
アルツハイマー型認知症

認知症にはいくつかの類型がありますが、なかでもアルツハイマー型認知症は発症の割合が多いとされています。記憶障害をはじめとした、さまざまな症状があらわれ、日常生活に支障がでてきます。

アルツハイマー型認知症の発症の可能性は誰にでもあります。この機会にアルツハイマー型認知症についてしっかり理解しておきましょう。

本記事では、アルツハイマー型認知症の原因から、診断、症状、対応などをわかりやすく解説しています。

アルツハイマー型認知症とは?

アルツハイマー型認知症は、複数ある認知症の種類の一種であり、1906年にドイツの医学者・精神科医A.アルツハイマー博士によって報告されました。

アルツハイマー型認知症は、65歳以前に発症したものを「早発性」、65歳以上で発症したものを「晩発性」に分類され、アルツハイマー型の多くは「晩発性」とされています。

患者の男女比でみると、男性よりも女性の方が多いのも特徴の一つです。

基本的には物忘れから進行しますが、加齢による物忘れとは異なります。

「食事」を例にすると、食事の内容を忘れるのが加齢による物忘れです。一方で、食事したこと自体を忘れてしまうのがアルツハイマー型認知症の症状です。

アルツハイマー型認知症は世界的にも関心を集めており、国際アルツハイマー病協会と世界保健機関(WHO)は毎年9月21日を「世界アルツハイマーデー」と定めて、啓発活動や理解の呼びかけをしています。

特徴・診断基準

ここでは、アルツハイマー型認知症の特徴と判断基準についてみていきます。

特徴

認知症全般でよくみられる症状としては、

  • 見当識障害(今がいつか、どこにいるのかなど自分が置かれた状況がわからなくなる)
  • 実行機能の障害(家事の手順などがわからなくなる)
  • 判断力の低下

などが挙げられます。
なかでもアルツハイマー型認知症においては、中核症状とBPSD(行動・心理症状)が現れます。

中核症状周辺症状

中核症状とは、脳の働きが障害によって低下し、認知能力が低下することで起きる症状です。

  • 記憶障害(物忘れが起きる、新しいことを覚えられない)
  • 思考・判断能力の低下
  • 見当識障害
  • 失行(目的に合った動作が行えない)
  • 失認(視力や聴力、触覚が正常に働かない)
  • 失語(言葉がうまく操れない)

などが見られ、一度失われた能力は治療により治すことができません。

BPSDとは、アルツハイマー型認知症によって起こるさまざまな心理・感情・行動の障害です。BPSDを伴わないケースは稀で、アルツハイマー型認知症の進行程度によって、現れるBPSDも変化します。

代表的なものとして、進行度合によって下記のような症状が現れます。

  • 初期…不安、うつ状態、妄想
  • 中期…幻覚、徘徊、興奮、暴言・暴力など激しい精神症状
  • 末期…人格変化、無言、無動など

これらは環境や周囲の助けによって緩和できる場合があります。

診断基準

アルツハイマー型認知症の診断では、まず口頭での問診や、認知機能のテストが行われます。
簡易的な診断基準の有名な例として、「改訂長谷川式認知症スケール」があります。ただし、このスケールでは、見当識障害や記憶障害は評価できますが、失認・失行などの動作性評価項目はありません。

その他、簡単な作業を行う動作性の課題を含む「MMSE(ミニメンタルステート検査)」が用いられることもあります。

WHOでは疾患の分類として、「ICD-10」※と呼ばれる項目を用いています。以下はICD-10の認知症の診断基準を要約した内容です。

簡易テストでアルツハイマー型認知症が疑われる場合は、米国精神医学会、またはNINCDS(アメリカ国立老化研究所)ADRDA(アルツハイマー協会)の基準を用いて診断が下されます。米国精神医学会とNINCDS・ADRDAの基準は大きくは異なりませんが、NINCDS・ADRDAでは、認知症の原因が他にないかを考えるための基準が用意されています。

また、検査の過程で脳画像検査(頭部MRIやCT)も行われ、脳の萎縮などが見られるかどうかも検査されます。

※ICD:世界保健機関(WHO)が定める疾患の分類で、正式名称は「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」です。「ICD-10」の数字部分は改訂数を表しており、「10」は第10版を意味します。
医学の進歩によって、疾病への理解や分類も変化するため、数年ごとに部分的に改訂されます。また、2019年には「ICD-11」が世界保健機関総会で承認されました。

認知症におけるアルツハイマー型の割合は?

「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」※の推計によると、2020年の65歳以上の高齢者のアルツハイマー型認知症を含む認知症患者は約602万人、認知症有病率では16.7%といわれています。

割合としては、65歳以上の6人に1人は認知症を発症しているといえるでしょう。

認知症にはいくつかの類型がありますが、なかでもアルツハイマー型認知症は最も症例が多く、認知症患者全体の60%以上を占めていると。

※出典:「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度 厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)

アルツハイマー型認知症は緩やかに進行し続ける

アルツハイマー型認知症の治療法はまだ確立されていません。基本的には投薬により、進行自体は遅らせることはできても、症状は緩やかに進行し続けます。

治療では症状の緩和、介護の負担の負担軽減しながら、少しでも長く家族と過ごせるようにすることを目指します。

発症する原因と考えられているものは何か?

アルツハイマー型認知症の原因は諸説あるとされ、明確な原因はわかっていません。
しかし、医学の進歩によってわかってきていることもあります。

老人斑、アミロイドβの関係は?

アルツハイマー型認知症は、脳の萎縮によって認知機能の低下が著しく生じる疾患です。

脳の細胞にβアミロイド(脳内で生成されるタンパク質の一種)がたまって「老人斑(老人班)」と呼ばれるシミのようなものができ、神経繊維の変化が生じることにより発症するといわれています。

発症年齢の平均は?若年性も増えている?

アルツハイマー型認知症による脳の変化は、症状が現れる数年前から生じていると考えられ、発症の時期ははっきりとはわかっていません。

アルツハイマー型認知症は、早期に投薬をすることで進行のスピードが遅らせることができるといわれているため、早くに異常に気付き、医師の診断を受けることが大切です。

ただし前述の通り、65歳以上の高齢者の6人に1人は認知症を発症するといわれています。年齢が高まるごとに、認知症のリスクは高まっていくといえるでしょう。

また、65歳未満で症状を発症するケースもあり、これは若年性発症型アルツハイマー病(以下:若年性アルツハイマー病)と呼ばれ区別されています。若年性アルツハイマー病の患者数は2020年時点で3.57万人と推計されています。

2009年の調査結果である3.78万人に比べると減少していますが、人口に対する割合は10万人に47.6人から50.9人へと増加が見られました。※
なお、若年性アルツハイマー型認知症のうち、半数程度がアルツハイマー型認知症と診断されています。

※出典:日本医療研究開発機構認知症研究開発事業による「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム」(2020年3月)

遺伝するものか?

アルツハイマー型認知症のほとんどは遺伝と関係なく発症するといわれています。しかし、65歳未満で発症する若年性アルツハイマー病の方の一部は、遺伝性のある「家族性アルツハイマー病」だといわれています。

家族性アルツハイマー病かどうかは検査で事前に発覚するケースもあるものの、絶対にわかるというものではありません。

なお、家族性アルツハイマー病による認知症は発症年齢が若い傾向にあるため、高齢発症の場合は遺伝が原因である可能性は低いと考えられます。

日常習慣に潜む危険因子 予防するにはどうすればよいか

アルツハイマー型認知症の原因は厳密には解明されていませんが、生活習慣が発症リスクに大きく関係するという研究報告もあります。

過度な飲酒や喫煙、糖尿病や高血圧、肥満などがアルツハイマー型認知症の発症率を高める可能性が指摘されています。

以下のような生活習慣を心がけることで、生活習慣病はもちろんアルツハイマー型認知症の予防にもつながる可能性があるとされています。自分や家族の生活習慣で意識してみましょう。

  • 過度な飲酒を避ける
  • 喫煙を避ける
  • 適度な運動をする
  • バランスの良い食事を心がける

発症からの経過で、症状は変わっていく

アルツハイマー型認知症は、症状や進行に個人差があり、年単位で除去に時間をかけて発症、進行していきます。他の認知症に比べて緩やかに進行するのがこの疾患の特徴です。

発症前期

物忘れや抑うつや不安感といった症状を感じることが多くなります。

この段階は軽度認知障害といわれ、本格的に症状が発症する10年前から兆候が見られることもあります。

  • 物忘れ・抑うつ、不安
  • 睡眠障害

初期症状 物忘れが顕著に

最近の行動や出来事をよく忘れるようになりますが、若いころや昔の記憶は比較的保たれています。また、日常生活での会話も覚えている傾向にあり、家族がケアすれば自宅での生活は維持できます。

  • 近時の記憶障害(他の刺激を受けると新しいことを忘れてしまう)
  • 時間の見当識障害(日時を理解できなくなる)
  • 実行機能障害(複雑な行為や抽象的な思考が難しくなる)
  • 睡眠障害

初期症状は、発症から1~3年程度の期間に多い症状です。

中期症状 できないことも増え、支離滅裂な発言も

最近の行動や出来事を記憶すること自体が困難になり、家族や周囲からも認知症であることがはっきり理解しやすい状態になります。日常生活での会話が徐々にできなくなり、時には支離滅裂な発言をしてしまうこともあります。

  • 人物や場所の見当識障害(自分が誰なのか、どこにいるのかがわからない)
  • 遠隔記憶の障害(数年~数十年の記憶を忘れてしまう)
  • 失認(相手やものなどの対象を認識できない)
  • 失行(簡単な行為もできなくなる)
  • 失語(話せなくなる)
  • 作話や妄想

中期症状は、発症から5~9年程度の期間に見られます。

後期症状 会話が困難になり全身の介護が必要

直前の出来事も記憶できなくなります。例えば、5分前の行動を尋ねても、全く違う内容の答えが返ってくることがあるでしょう。そのため日常生活での会話はほとんど成立しません。家族の手助けがあっても介護が難しく、施設への入所が検討されます。

  • 鏡兆候(鏡の中の自分を自分と認識できない)
  • 興奮や多動が見られる
  • 意識障害
  • 嚥下障害

後期症状は、発症から10年以上経過して見られる症状です。

発症後の平均寿命は5~12年

認知症になってから、その後の余命は5~12年程度といわれています。ただし、症状の進行には個人差があるため、余命についても人それぞれで異なってきます。基本的には症状の進行に伴って、脳や身体の障害が進んでいきます。

日本人の死因にはアルツハイマー型認知症も

日本人の死因について、厚生労働省「人口動態統計月報年計(概数)の概況」(2019年)によると、以下の通りになっています。

1位 悪性新生物・・・27.3%
2位 心疾患(高血圧を除く)・・・15.0%
3位 老衰・・・8.8%
4位 脳血管疾患・・・7.7%
5位 肺炎・・・6.9%
6位 誤嚥性肺炎・・・2.9%
7位 不慮の事故・・・2.9%
8位 腎不全・・・1.9%
9位 血管性及び詳細不明の認知症
10位 アルツハイマー型認知症・・・1.5%

アルツハイマー型認知症は10位に入っていることがわかります。ただ、認知症末期の症状が出現するようになると、食べ物でないものを口に入れたり、徘徊したりするケースも増えます。こうして起こる誤嚥性肺炎や不慮の事故などは、直接の原因でなくともアルツハイマー型認知症に起因しているため、一概に順位だけで測ることはできません。

アルツハイマー型認知症への対応、介護のしかた

ここまで、アルツハイマー型認知症の特徴や原因、症状の進行について解説してきました。ここからはアルツハイマー型認知症患者への対応や、介護の仕方についてみていきましょう。

もしかして?家族としての接し方

もし自分の家族が認知症になった場合は、どのように接していくのがよいのでしょうか?ここでは、認知症患者への家族としての接し方についてまとめます。認知症を正しく理解し、さりげなく自然なサポートをしていくことが大切です。

様子がおかしいと思ったら、専門家に相談を

アルツハイマー型認知症に限らず、自分の家族が「もしかして認知症かも?」と思ったら、まずは主治医に相談してみましょう。主治医の専門ではない場合でも、紹介状を出してもらうことができれば、専門的な病院で診察が受けやすくなるためです。主治医がいないという方は、もの忘れ専門の外来などがある総合病院での受診をおすすめします。

また、認知症全般で言えば、適切な治療を受けられれば、投薬で症状の進行を緩やかにしたり、場合によっては改善したりを期待することもできます。早期診断・早期治療をすることが何よりも大切です。

家族としての接し方のポイント

アルツハイマー型認知症では、記憶障害・見当識障害などの症状がみられます。家族としての接し方のポイントを以下でまとめていますので、コツを押さえて対応しましょう。

  • 鏡服薬管理をする(薬の飲み忘れがないように記録・見届ける)
  • 興同じ話を何度繰り返しても我慢強く聞いてあげる
  • 意否定をしない。寄り添ってさりげなく指摘してあげる
  • 嚥メモやカレンダーを利用して物忘れをサポートする
  • 嚥患者に合わせて生活環境を変更する(コンロを家事の危険のないIHに替える、身の回りのものを使いやすいものに替える など)
  • 嚥無理強いをしない
  • 嚥不快な言葉は使わず、信頼関係を作る(本人の尊厳を尊重する)

アルツハイマー型認知症と診断されたら介護認定を受けよう

認知症の家族の介護を自分だけで対応するのは、心身ともに非常に大変です。自分だけの介護に限界を感じたときは、介護保険のサービスの利用も検討してみましょう。

サービスの利用には介護認定を受ける必要がありますが、一定の条件をクリアして「要支援」・「要介護」という結果が出ればサービスを受けることができます。

要介護認定を受ける手続きのプロフェッショナルは、ケアマネジャーです。地域支援センターや居宅介護支援事業所の窓口に相談することで、無料で代行申請してもらうことができます。

ご本人も家族も笑顔で過ごせる時間を少しでも長く

アルツハイマー型認知症を発症した場合、状態によっては24時間介護が必要になるなど、家族だけでできるケアにはどうしても限界があります。認知症の家族本人が適切なケアやサポートを受けられるよう、各種サービスや老人ホームなどの施設の利用も検討してみてください。

お互いが笑顔で過ごせる時間を少しでも長くできるように、認知症の家族本人だけでなく、介護をする家族も無理のないように「今」を過ごしていきましょう。

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監修者:杉山 孝博(すぎやま たかひろ)
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
監修者:杉山 孝博(すぎやま たかひろ)
川崎幸クリニック院長

川崎幸病院副院長を経て1998年より川崎幸病院の外来部門「川崎幸クリニック」院長に就任。公益社団法人認知症の人と家族の会全国本部副代表理事、神奈川県支部代表。認知症と介護に関する著書、講演など多数。

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