【認知症のキホン】血管性認知症とは?発症の原因や主な症状、治療法を解説

公開日:2021年12月22日更新日:2023年02月13日
血管性認知症

血管性認知症は、脳の血管障害によって発症する認知症です。アルツハイマー型認知症のような記憶障害のほか、その他の認知症の症状(言語障害・見当識障害など)がまだらに生じる特徴(「まだら認知症」)を持っています。

できることとできないことが極端な場合や、突然感情が大きく変化した場合、血管性認知症を発症している可能性も。

本記事では、血管性認知症となった場合にどのような対処を取るべきなのか、原因や症状と合わせてわかりやすく解説します。

血管性認知症(脳血管性認知症)とは?

そもそも、血管性認知症とはどのような認知症なのでしょうか。原因や危険因子、アルツハイマー型認知症との違いをまとめました。

血管性認知症の特徴

血管性認知症は、脳血管障害(脳卒中)によって脳が障害を受けることによって起こる認知症です。認知症の中では、アルツハイマー型認知症に次いで割合が多いと言われており、発症は女性より男性の方が多い傾向にあります。

ただし、血管性認知症の場合、脳のどこに障害をうけるのかによって、表れる症状が大きく異なります。認知症状だけでなく、運動麻痺や言語障害などが起こることもあります。

原因が同じ脳卒中であっても、人によって認知症の症状が異なる点は、血管性認知症の大きな特徴だと言えるでしょう。

また、障害を受けていない脳が関係する機能は残るため、できることとできないことの偏りが大きいことから、「まだら認知症」とも呼ばれます。

血管性認知症の原因

血管性認知症は脳血管障害(脳卒中)によって脳の血管がつまったり、出血したりすることで起こります。そのため、危険因子(病気を引き起こす要因)も脳卒中と基本的に同じで、高血圧、糖尿病、不整脈、高脂血症など、生活習慣に起因するものが大半です。

詳細は後ほど解説しますが、血管性認知症の予防方法としては、このような生活習慣を改める必要があります。

【POINT】脳血管障害(脳卒中)とは?

脳の血管が詰まるか、破れる脳に血液(酸素や栄養)が届かなくなり、脳が障害を受けるという病気です。脳血管障害は原因によって大きく3つのタイプでに分けられます。

  • 脳血管に血の塊(血栓)がつまる「脳梗塞」
  • 脳血管が破れる「脳出血」
  • 脳動脈の一部が「こぶ」のように膨張した「動脈瘤(どうみゃくりゅう)」が破れる「くも膜下出血」

いずれも、脳のどの部分が障害を受けたかによって、症状が違います。

アルツハイマー型認知症との違い

アルツハイマー型認知症は、認知症の中でもっとも割合が多い病気で、認知障害が主な症状です。

血管性認知症も、アルツハイマー型認知症と同様に、認知障害の症状が出ることが多いのですが、アルツハイマー型認知症とは、同じ「認知障害」でもその内容が違います。

アルツハイマー型認知症は、記憶障害から始まり、認知機能障害が少しずつ広がり、顕著になっていくのが特徴です。

しかし、血管性認知症は、脳に問題が起こった部位を中心とした機能だけが失われる(著しく低下する)ため、症状にバラつきがあります。忘れていることと覚えていることの差が極端だったり、日によって症状の出方が違ったりする場合は注意が必要です。

また、脳卒中が繰り返し起こると、段階的に症状が進行します。

血管性認知症の主な症状

血管性認知症は影響を受けた脳の部位によって、症状が変わります。そのため、すべての血管性認知症患者に同じ症状が出るわけではありません。

また、症状にバラつきがあることから、血管性認知症かどうかの判断を家族が行うのは困難とされています。

ここでは、血管性認知症の傾向と主な症状をまとめていますので、疑わしい症状があった場合は、医師の判断を仰ぐようにしましょう。

症状の傾向

血管性認知症の症状には以下のような傾向が見られます。

  • 複数の症状が併発する。
  • 症状の変化に波がある。
  • 感情的になりやすい。

主な症状① 認知機能障害(中核症状)

血管性認知症でも、記憶障害や、判断力の低下、計画を立てるのが難しくなるといった認知機能に関する障害が起こります。アルツハイマー型認知症に比べると、判断力や記憶力の低下は軽微なケースが多いです。

なお、認知機能障害と似た症状として、せん妄(せんもう)も挙げられます。認知症では記憶力が低下しますが、せん妄は注意力が失われます。

血管性認知症では、認知症の症状と同時にせん妄の症状が起こることもあるので注意が必要です。

主な症状② BPSD(行動・心理症状)

BPSDとは、認知症の中核症状(主に認知機能障害)に起因して現れる周辺症状のことで、精神症状(抑うつ・不安など)や行動症状(徘徊や暴力など)がこれに該当します。

血管性認知症は、判断力や人格には大きな影響を及ぼさない傾向があるため、患者本人としては「これまでできていたことができなくなってしまった」という自覚を持ちやすくなります。

そのため、ほかの認知症に比べて本人の不安感が強くなる傾向にあるようです。

主な症状③ 身体面に現れる症状

血管性認知症は、脳卒中による身体症状も合わせて出る可能性があります。

手足のまひや、呂律(ろれつ)が回りにくくなるといった言語障害、感覚の障害、排尿障害などが該当します。

血管性認知症の経過による変化

血管性認知症は、アルツハイマー型認知症のように少しずつ症状が重くなるのではなく、脳卒中が再発するたびに段階的に悪化する傾向にあります。

なかには、細い血管が詰まってしまうなどの場合(ラクナ梗塞など)、症状が緩やかに進行することもあります。

症状の経過については、初期の症状よっても変わってくるものの、段階的に機能低下が進行するため、進行予防として、落ち着いた環境下で、適切な対応が必要です。

血管性認知症の検査方法

血管性認知症は、問診や各種検査によって診断されます。血管性認知症が疑われた際は、病院で検査を受けましょう。

なお、どこの科に該当するかは、脳卒中の有無によって変わります。脳卒中を起こした経験がある場合は、脳卒中と認知症の因果関係を調べるために、治療を受けた担当医に相談してください。

一方、脳卒中の経験がないのであれば、まずは「もの忘れ外来」や「神経内科」など、一般的な認知症の診断を行っている科で診察を受けるのがよいでしょう。

脳卒中経験あり 脳卒中経験なし
神経内科 もの忘れ外来
脳神経外科など 神経内科
※担当医に相談 脳神経外科など
  精神科

ここから診断の基本的な流れをまとめていますので、イメージとして知っておきましょう。

担当医による問診

血管性認知症でも、その他の病気と同様に担当医による問診が行われます。

いつごろからどんな症状が出ているのか、具体的な内容を問われるため、「あれ?」と思ったら日にちや症状を随時メモしておくとよいでしょう。

認知障害がある場合、自分ではうまく答えられないかもしれません。家族がしっかりフォローしましょう。

認知機能テスト

認知機能テストでは、記憶力や計算力、判断力などをチェックします。

このチェックは、簡単な質問に答える形式で行われますが、家族が同じ質問をしても正確な診断はできません。質問の仕方や評価の仕方を熟知した医師や心理士がテストを行います。

画像検査

CTやMRIを撮って、脳の内部の状態を画像で確認します。認知症の原因となる脳の萎縮のほか、血管の詰まりや出血がないかどうかも、画像検査で調べられます。

生活習慣病関連の検査

血管性認知症は、生活習慣病に起因する場合が多いとされているため、血液検査や骨密度検査、心電図検査なども行う場合があります。

血管性認知症の治療法

血管性認知症の根本的な治療は、困難とされているため、治療では脳卒中の再発防止策と、認知症の症状を抑える対症療法が適用されます。

対症療法

対症療法は、リハビリとで行います。それぞれの内容を簡単に解説します。

薬物処方

薬は症状に応じて処方されます。意欲が低下して抑うつ症状がある場合は抗うつ薬、アルツハイマー病を併発している場合は、アルツハイマー病で利用される薬が処方されます。

また、糖尿病や高血圧といった病気がある場合は、それぞれの病状に応じた薬を服用することになるでしょう。

リハビリテーション

血管性認知症への対応として、リハビリテーションは重要です。症状として手足の麻痺や言語障害もあるので、手足を動かしやすくする運動や歩行訓練、言語機能回復に向けたリハビリ理学療法士や言語聴覚士などの専門家指導の下で実施します。

また、リハビリが重要とされている理由のひとつに、機能の失った一部の脳を他の部分の脳がカバーするというケースもあるからです。

ただし、リハビリで無理をし過ぎると、憂鬱な気持ちが強くなる例もあるため、本人の気持ちが落ち着いているときに実施するなどの配慮が必要です。

再発予防

血管性認知症では、脳卒中を再発させないための予防策も大切です。 脳卒中の原因となる糖尿病や高血圧、不整脈といった基礎疾患を治療するとともに、食事の見直しや運動、禁煙といった生活習慣の改善も大切です。

また、血管詰まりを防ぐために、血流をスムーズにする薬が処方される場合もあります。

血管性認知症の予防と患者をケアする方法

血管認知症は、予防が可能とされている認知症です。意識しておきたいことや、家族が血管認知症になったときの対処法について知っておきましょう。

生活習慣病の予防

脳の血管の動脈硬化を防ぐために、高血圧や糖尿病、コレステロール値の上昇などに気を付けましょう。健康的な食事や、適度な運動、規則正しい生活、禁煙、肥満の解消を心掛けます。

適切な環境作り

家族が血管性認知症になってしまったときは、それ以上症状を進行させないための環境づくりを行いましょう。

転倒を防止するために、室内の段差をなくしたり、手すりをつけたりするのが効果的です。

また、本人がうまくできないときにすべて代わったり助けたりするのではなく、適度なサポートにとどめることも大切です。

患者の気持ちに寄り添い、できることを増やしていけるように心がけましょう。

支援サービスの活用

血管性認知症をはじめとする認知症のケアには、家族のサポートが欠かせません。しかし、すべてを家族が担うのは負担が大きすぎます。認知症の方向けの支援制度やサービスをうまく活用しましょう。

デイサービスのような通所サービスのほか、介護施設への入居、医療費負担に対する支援などが利用できますから、自治体の地域包括支援センターや相談窓口などを訪ねてみてください。

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監修者:杉山 孝博(すぎやま たかひろ)
川崎幸クリニック院長
杉山 孝博
監修者:杉山 孝博(すぎやま たかひろ)
川崎幸クリニック院長

川崎幸病院副院長を経て1998年より川崎幸病院の外来部門「川崎幸クリニック」院長に就任。公益社団法人認知症の人と家族の会全国本部副代表理事、神奈川県支部代表。認知症と介護に関する著書、講演など多数。

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