【介護のお悩み】誤嚥(ごえん)とは?原因や症状、予防トレーニングを解説

公開日:2021年12月22日更新日:2023年02月03日
高齢者の誤嚥

家族が高齢になって、食事中にむせることが増えたり、食が細くなるなどの変化があらわれた場合、その原因は「飲み込む力」が低下していることが原因かもしれません。飲み込む力、つまり「嚥下(えんげ)機能」が低下すると、「誤嚥」が起こりやすくなります。

誤嚥は、「誤嚥性肺炎」を起こす原因にもなるため、放置するのは危険です。本記事では、誤嚥の原因や症状、予防のポイントについて解説しました。

誤嚥(ごえん)とは?

誤嚥とは、飲み込んだ食べ物や唾液などが、食道ではなく気道(気管)に入ることをいいます。

飲み込んだものが気管に入ること自体は、若い健康な人でも起こりますが、通常はむせるなどして、すぐに体外へ排出されます。ところが高齢の人になると、ものを排出する力が弱まり、そのまま気道(気管)に入り込んでしまうことがあります。

ものを飲み込んで、口から胃へ運ぶ働きを「嚥下機能」と呼びます。誤嚥は、嚥下機能の低下によって起こる「嚥下障害」症状のひとつです。

嚥下とは?

そもそも嚥下とは、食べ物を口から摂取して、咀嚼(そしゃく)し、飲み込み、食道を通って胃へ運ぶ、一連の動きを指すものです。普段、何気なく行っている嚥下ですが、実際には上記の動作が絶えず行われています。

また、飲み込む際には、嚥下反射と呼ばれる反応が起こります。通常はこの反射で気管に蓋がされて、食べ物が流れていきません。

こうした筋肉や神経の働きが加齢や病気によって弱ると、誤嚥が起こります。

ここからは誤嚥の原因・検査方法について解説します。

誤嚥の原因は嚥下機能の低下

年齢を重ねるうちに、ものを飲み込むときに使う筋力が衰えると、飲み込む機能(嚥下機能)や、吐き出す機能も低下します。これが高齢者に誤嚥が多い原因です。なお、吐き出す機能は「喀出(かくしゅつ)機能」と呼ばれます。

また、認知機能の低下やうつ症状が誤嚥の遠因であるケースも見受けられます。

なお、高齢者の誤嚥は、食事中だけでなく、就寝中に起こる場合もあります。口にたまった唾液や、逆流した胃の内容物が気道(気管)に入ることがあるからです。

誤嚥が起きたときの症状と対応

誤嚥の主な症状は、むせこみです。咳をすることで、気管に入った異物を外へ出そうとするためです。

ただし、高齢者の誤嚥では、気道防御反射が低下しているため、誤嚥が起こっている最中も咳が出ないケースがあります。誤嚥が起こっていても気づかない可能性が高いため、高齢者の食事中は周囲が注意深く見守る必要があるでしょう。

周囲からわかる誤嚥のサイン

誤嚥の症状は、咳だけではありません。食事中や前後に以下のような症状が出る場合は、嚥下機能に問題が出ていたり、誤嚥の可能性があったりします。

  • 痰がからむ
  • 声がガラガラする
  • 食事に時間がかかる
  • 食べ物が口の中に残る
  • 食事中に鼻水が出る
  • 食事量が減る
  • 体重が減少する

症状が見られた場合の対処

食事中にむせたり、咳が出たりした場合は、一度中断しましょう。誤嚥が起こっている可能性があるので、前かがみの姿勢で咳をしてもらいます。ゆっくり背中をさすってあげるのも効果的です。

落ち着きを取り戻せるように深呼吸をして、症状が治まってから食事を再開します。なお、水やお茶は、症状が出ているときに飲むと逆効果になることがあるため控えてください。

なお、咳以外の症状も気になる場合は、その場での対処は難しいかもしれません。病院で嚥下機能の検査を受けましょう。

嚥下機能の検査方法

ご家族に嚥下機能や喀出機能の低下がみられたら、症状に応じた検査を受けてもらうようフォローしましょう。

嚥下機能に問題があるかどうかは、病院の検査で調べることができます。主な検査方法は以下のような内容です。

スクリーニング検査

スクリーニング検査とは、嚥下機能障害の疑いがある方に対して、本当に障害があるかどうかを絞り込むために行う検査です。

唾液を30秒間で何度飲み込めるか、少量の水を口に含んだ後に飲み込めるか、といったチェックのほか、むせの有無、呼吸の乱れなど、複数の検査を組み合わせて嚥下機能の評価を行います。

エックス線・内視鏡による検査

嚥下時に喉がどう動いているかを調べる検査も行われます。エックス線を使って、鼻から内視鏡を入れた状態で飲み込んでもらい、様子を確認したりします。これらは、嚥下リハビリテーションの必要性や、適切な食事の形態を判断するために用いられる検査です。

誤嚥によるリスク

誤嚥は、命にかかわるトラブルを引き起こします。「むせて苦しい」だけでは済まない、誤嚥のリスクを理解しておきましょう。

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは、誤嚥が原因で起こる肺炎のことです。食べ物や唾液、あるいは口腔内の細菌が気管や肺に入ってしまうと起こります。

通常の肺炎では、高熱や咳といった症状が出ますが、誤嚥性肺炎はこれらの症状が出ない場合もあります。特に高齢者は「むせこみや発熱がないから大丈夫だろう」と油断しないことが大切です。

窒息

誤嚥したものを吐き出せずに、激しくむせこんでしまうと、呼吸困難に陥ることがあります。そのままにしておくと命にかかわるため、すぐに対処してください。

詰まったものを引っ張り出したり、背中を叩いたりすることで改善する例もありますが、難しそうなときや、症状が強く出ているときは、すぐに救急車を呼んでください。

誤嚥を起こさないための対策・予防法

誤嚥は、起こった後で対処するのではなく、そもそも起こさないことが大切です。誤嚥や、誤嚥を原因としたトラブルを予防するための対策を紹介します。

食事をする時間帯を決めておく

食事をする時間をあらかじめ決めておくことで、1日のリズムを作りやすくなります。朝、昼、晩の食事時間は同じ時間に設定しましょう。

また、食事に集中して向き合えるように、テレビを見ながら食べるといった習慣はやめるようにしてください。

飲みこみやすい調理を心がける

誤嚥が起こりやすい高齢者には、飲み込みやすい食材や調理法を意識したメニューを用意するようにしましょう。

「お餅を避ける」「細かく刻む」といった対処は、多くの人が自然と行っていることだと思います。これに加えて、特に嚥下機能の低下がみられる人に対しては、状態に応じた嚥下食を用意します。

食材を細かく刻んだり、ペースト状にしたりと、嚥下食にもさまざまな種類があります。スープや飲み物にとろみをつけて、飲み込みやすくするのもおすすめです。症状に応じて選択する必要があるため、病院で相談しましょう。

誤嚥しやすい食材を控える

食材の中には、誤嚥しやすいものと、比較的しにくいものがあります。誤嚥機能の低下を感じたら、誤嚥しやすい食材は控えましょう。

下記では誤嚥しやすい食品をご紹介します。

口内や喉にへばりつきやすい食品

焼きのりやわかめなどは、健康な人でも口の中などにへばりつく可能性がある食品です。このような食べ物は、喉にも残りやすく、誤嚥の危険性が高くなります。

歯で噛み切るのが難しい食品

嚥下機能が低下すると、大きなものを飲み込むのが困難になります。タコやイカ、こんにゃくのように、噛み切るのが困難な食材は、隠し包丁を入れるか、避けましょう。

なお、高齢者にとって飲み込みづらい食品として挙げられるお餅は、口内や喉にへばりつきやすく、なおかつ噛み切るのが難しい特徴を持っています。

水分が少なく乾燥した食品

ぱさぱさしたパンやイモ類、ポップコーン、ゆで卵の黄身など、水分量が少ない食品も、誤嚥を引き起こしやすいです。潰して水分を足すなどの工夫をしましょう。

口のなかで細かく分解される食品

小さいものは誤嚥しづらいと誤解してしまいがちですが、口の中で細かく分解される食品も、誤嚥のリスクを高めます。ひじきやパラパラのひき肉、おからなどが該当します。まとまりがよくなるようにとろみをつけるといった工夫が必要です。

誤嚥が起こりづらい姿勢で食事する

食事は、普段通りの慣れた姿勢で行うのが基本です。椅子には深めに腰かけて、足をきちんと床につけ、姿勢よく食べましょう。

ただし、むせやすい場合は、少し前かがみになって顎を引くと食べやすいと言われています。また、飲み込みづらい場合や、ベッドで食べる場合は、背もたれを30~60度に調整して頭に枕を当てて食べましょう。

口内を常に清潔に保つ

口の中に食物のカスが残っていると、歯垢や舌苔となって細菌が繁殖し、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。誤嚥をしたときのリスクを減らすために、口の中を常に清潔に保ちましょう。

食事前後や寝る前の歯磨きを習慣づけてください。歯磨きが難しい場合、お茶を飲むと口の中を清潔に保ちやすくなります。認知症を患っている方や寝たきりの方の口腔ケアについては、ケアマネジャーに相談しましょう。

飲み込む力アップのための誤嚥予防トレーニング

嚥下機能が向上すれば、それだけ誤嚥のリスクを下げられます。食事の工夫と同時に、飲み込む力を養うトレーニングも行ってみましょう。

医療関係の団体で紹介されている誤嚥の予防トレーニングを2種類紹介します。

ゴックン体操

ゴックン体操は、首の体操と顎の体操の2つに分かれています。

【首の体操】
  • 1.ゆっくり上を向き、その後、下を向きます
  • 2.首をねじって左を向き、次に右を向きます
  • 3. ゆっくりと首を左に傾け、次に右に傾けます
  • 4. 首を左から1回、右から1回、ゆっくりと回します
  • 5.1から4をもう一度繰り返します

どの動きも、ゆっくりと、呼吸をしながら行いましょう。

【顎の体操】
  • 1.下あごを前につきだします
  • 2.反対に、下あごを首側へ引っ込めます
  • 3.顔をゆがめるように、下あごを左側へ移動させます
  • 4.同様に、右側へ移動させます
  • 5.1から4をもう一度繰り返します

顎の体操も、ゆっくり息をしながら行います。

のど上げ体操

のど上げ体操は、飲み込む際の喉の動きを意識的に行う練習です。

  • まずは、どのように喉が動いているのかを意識しながら少量の水を飲みこんでみます。手を当てて観察してみてください。
  • 次に、力強く飲み込んで、さきほどの動きとの違いを考えます。最後にもう一度力強く飲み込んだ後、そのまま喉の動きを止めて状態を確認します。

上記に加えて、大きく舌を出し入れする、歌を歌う、発声練習をする、あくびをする、など、口や喉を動かす練習をするのもおすすめです。

家族が「嚥下障害かも」と感じたら

食事中、ご家族の様子がこれまでと少し変わってきたと感じたら、嚥下障害になっている恐れがあります。普段の食事内容や姿勢を意識して、トラブルが起こらないように気を付けましょう。あわせて、嚥下機能の検査を行って現状を正しく理解することも大切です。

なお、症状が進み、負担や不安が大きくなったときは、ご家族内で対処しようとせずに、専門家に相談してみましょう。状況に応じて「自分たちは何をすべきか」ということを明確にすることが大切です。

また、症状に応じた外部サービスを活用することで、ご本人とご家族の負担を軽減できます。介護施設や訪問介護といった、介護サービスを上手に使うなどして、ご家族みなさんに負担の少ない方法を探していきましょう。

監修者:川上 由里子(かわかみ ゆりこ)
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)
川上 由里子
監修者:川上 由里子(かわかみ ゆりこ)
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)

大学病院、高齢者住宅などで看護師として勤め、大手不動産株式会社「ケアデザイン」の立ち上げに参画。支える人を支えるコンサルティングを開発実施。著書に[介護生活これで安心](小学館)「働きながら介護する〜ケアも仕事も暮らしもバランスとって〜」(技術評論社)。

自身も働きながら父親の遠距離介護を体験。介護、看護、医療サービスを利用しながら在宅での最期を看取り、多くの学び、想いを得る。現在は介護関連のコンサルティングの他、講演、執筆活動を行っている。希望は心と心を結ぶケアを広げていくこと。

page-top