【介護に疲れた方へ】介護疲れを軽減するための支援と対策
在宅介護で多くの人が感じており、社会問題にもなっている「介護疲れ」。では具体的にどのような点が疲労として蓄積されるのでしょうか?
介護疲れを放置していると、取り返しのつかない問題へ発展することもあります。本記事では、介護疲れの要因や問題、対策のヒントについてまとめました。
介護疲れを感じている人はどのくらいいる?
介護に疲れて、体調を崩したり不眠になったりと、心身に影響を感じている人は数多く存在します。介護中の方は、「自分だけがこのような思いをしているのではないか」と孤独を感じるかもしれませんが、そんなことはないのです。
厚生労働省発表の「2016年 国民生活基礎調査」によると、介護者(介護を行う方)のうち、介護に関する悩みやストレスがあると回答した方は70%近くもいるとされています。
このように、介護疲れは個人だけの問題ではなく、社会的にも大きな問題だと考えられます。
ケアマネジャーの93%が介護者の介護疲れを感じたことがある
在宅介護におけるパートナーであるケアマネジャーは、日々ご家族による介護の様子を目の当たりにしています。2016年に介護・ヘルスケアソリューション事業を展開する(株)インターネットインフィニティーと、毎日新聞が共同で行った「介護者の“介護疲れ”」についてアンケートによると、調査対象のケアマネジャーのうち、93%の人が介護者の介護疲れを感じているようです。100%にも到達しそうな数値ですが、具体的にどのようなことが要因で介護疲れを感じているのでしょうか?
介護疲れの要因1 身体的な負担
日本の介護事情の特性として、母親や妻など、女性が介護者として対応しているケースの多さがが挙げられ、体力・体格的に負担が大きくなります。
車椅子からベッドや座椅子への移乗、深夜のおむつ交換、食事介助など、疲労や肩こり、腰痛の原因が介護には潜んでおり、それが積み重なると介護ストレスに変化します。
さらに、夜間も様子が気になったり、起こされて介護をしたり、不眠状態になることも珍しくありません。
介護疲れの要因2 精神的な負担
「思うように食事を食べてくれない」、「尿漏れがあり頻繁に更衣介助をしなくてはならない」、「何度も呼ばれる」、「認知症の相手とうまく会話できない」などのやり取りが繰り返されると、介護をする側もされる側もイライラが増えます。結果的に、取り返しがつかないほどの精神的なストレスが蓄積されてしまうのです。
介護疲れの要因3 経済的な負担
介護保険制度を活用することで、介護サービス費用の自己負担額を減らすことはできますが、それでも費用が安価というわけではありません。
重度とされる要介護4や5の人の介護は、特に費用が高くなります。さらに、介護に時間を取られることから、収入は減ることはあっても増えることはほとんどの場合ないでしょう。
この生活がいつまで続くか分からない不安が大きなストレスへと変化するのです。
介護疲れは被介護者の状態によっても変わる
被介護者それぞれの心身状態によって、介護疲れの種類や負担度合いも変化します。
認知症の介護負担は大きい
認知症は、初期、中期、後期と段階に応じて症状は変化していきますが、その度合いに応じて介護者の精神的な負担も大きくなっていくでしょう。
認知症の方の場合、いわゆる問題行動(行動障害)が介護者のストレスを引き起こします。よくある問題行動としては以下のような種類があげられます。
- 財布など大事なものを盗られたと思い込む「物盗られ妄想」
- 一人で家から出て戻れなくなる「徘徊」
- 食べ物ではないものを口にいれる「異食行為」
- 叩いたり殴ったりする「暴力行為」
- 見えないものが見える「幻視などの妄想」
訪問介護やデイサービスなどの外部サービスを利用しても、24時間介護から離れられるわけではありません。このため、上記のような行動の一つひとつが介護負担を大きくさせるのです。
また、問題行動が激しいと介護保険サービスの利用を断られるケースもあり、ストレスはさらに増幅します。
末期癌などの終末期の介護
医師から回復の見込みがないと診断され、在宅で最期を送ろうと考える方も珍しくありません。「最期くらい住み慣れた家で過ごしたい」というご本人の意向を叶えてあげたいと思うご家族も多いでしょう。
しかし、末期癌などの終末期の介護では、医療、看護体制を整え、24時間ケアをする必要が出てきます。通常の介護よりも気が張ってしまい、心を落ち着ける時間がなくなり、負担が大きくなるのです。
介護疲れによって引き起こされる事件や問題は?
介護疲れを放置し続けると、前述したようなストレスが積み重なり、最悪の場合にはさらに深刻な状態へと発展する可能性もあります。どのような問題が起こるのかを見ていきましょう。
ニュースになるような事件が起こってしまう
- 「介護に疲れた」
- 「これ以上介護をするのは限界だ」
- 「一人で抱えきれなくなった」
このような理由で、介護にまつわる殺人事件や無理心中が発生しています。
もちろん、そのような感情が最初からあったわけではなく、必死に介護をした末に、自分一人ではどうしようもなくなり、このような痛ましい事件を起こしてしまうのです。介護疲れは、そういった恐ろしさを含んでいます。
介護者がうつになったり、体調を崩したり、共倒れになってしまう
真面目に介護をすればするほど、質の高いケアができる一方で、介護者のストレスや疲労は溜まります。その結果、精神的負担が大きくなり過ぎて、うつ病など精神疾患を患うケースが後を絶ちません。また、不眠が続き、体調を崩すなどにより、介護者自身に入院が必要になる場合もあります。その際、介護する方が不在となるという、新たな問題も引き起こします。
介護離職や離婚などで介護者の生活も成り立たなくなる
例えば80歳の親を50歳の子どもが介護する場合、50代なら、まだ働き盛りの方も多いでしょう。しかし、介護生活による時間の制約や体への負担、精神的ストレスは非常に大きなものです。心身ともに限界を感じて、仕事を辞める選択肢を強いられる人は多いと言われています。いわゆる「介護離職」です。
また、介護疲れが原因となり、介護者自身の生活が安定せず、離婚に発展するケースも少なくありません。
このように、介護疲れは介護者の経済的不安や、生活環境にも影響を与えるのです。
あなたの疲労はどのくらい?介護疲れチェックシート
「自分の介護疲れが、今どのくらいのレベルにあるのかわからない」という方も多いでしょう。そこで、介護疲れの度合いを測るチェックシートを見てみましょう。
以下のチェック項目に一つでも該当すれば、介護に不安や疲れがある疑いがあるので注意が必要です。
- 介護には手を抜けない
- 介護をしているのは自分だけだ
- 介護は家族だけで対応したい
- 頼れる人や相談できる人が周りにいない
- 介護に関する相談先・情報収集の仕方がわからない
- 介護方法は独学・我流だ
- いつまで介護続くかわからない将来が不安だ
- 被介護者以外の家族への対応を後回しにしがちだ
- 介護に時間を取られて気軽な外出ができない
- 趣味や交友にかけられる時間がほとんどない
介護者の疲れを癒す方法を見つけることが大切
こういった介護の不安や疲れをなるべく軽減できるように、ストレスが溜まる前に対策をとることが大切です。介護中は以下のような対応を心がけましょう。
自分なりの癒しを見つけてみる
自分にとってリラックスできる時間を増やすことを心がけましょう。「気持ちが良い」、「リラックスできる」、「癒やされる」と思える時間を作ることが大切です。
「そんな時間はない」と思う方もいるかもしれませんが、少し強引にでも「時間をつくること」と意識してみてください。
- アロマオイルを使ってみる
- 好きな入浴剤やバスアロマを試してみる
- リラックスできる音楽を聴く
- 疲れが取れるマッサージグッズを使ってみる
- 好きな俳優が出演している映画やドラマを観る
- 読書に没頭する
上記のように、できるだけ多くの癒しを見つけてみてください。介護のストレスは日々積み重なるため、意識的にリラックスタイムを増やしましょう。
介護者も休息して気分転換を レスパイトケア
「レスパイトケア」という言葉をご存じでしょうか?これは「介護を要する障がい者や高齢者の家族が一時的に介護から解放されるように、代理の機関や公的サービスなどを利用しながら、日頃の心身の疲れを回復すること」を意味します。介護保険サービスにあたるデイサービスやショートステイを利用し、被介護者から距離を取って心身を休ませます。
この時間を利用して、日頃の介護から離れ、ドライブや食事、旅行などを楽しみながら心身のリフレッシュを図ります。
周囲の理解や励まし
介護には周囲からの理解や客観的な視点も重要になります。例えば、介護をしている人に対して、家族や知人から、「いつも介護頑張っているね」、「介護保険サービスを使うのも一つの方法だよ」、「介護してくれてありがとう」、「困ったことがあれば、いつでも手伝うからね」など、親身な声掛けが介護疲れの癒しにつながるケースも多いでしょう。
さらに介護をしていることを周囲に話しておくことで、客観的な意見がもらえたり、就業中の方は仕事でフォローしてもらえたり、ということもあります。
ご家族は、誰か一人に介護を押し付けず、チームを作り手伝い・支えてあげるようにしてください。一人で介護をしている場合には、孤独や不安を強く感じやすくなります。介護者を一人にしないように、思いやりを持ったコミュニケーションやサポートが必要です。
介護疲れの対策で大切なのは「介護者の心の持ち方」
介護疲れを防ぐ方法として一番大きいのは、介護する方の心の持ち方です。介護をする側が辛い状況だと、介護をしてもらう側も辛いものです。以下のような点に注意して、少しでも心が軽くなるように考えてみましょう。
介護を一人で頑張りすぎない
親やパートナー、子どもの介護に真摯に向き合うことは大切ですが、必要以上に責任を感じたり、完璧にやろうとしたりする姿勢は、心身の負担をより大きくしてしまいます。介護は、自分一人で抱え込まないようにしてください。
同居する家族や、兄弟・姉妹にも手伝ってもらい役割分担を整える、こまめに相談するなど、協力体制を作りましょう。
また、介護サービスを利用するなどして、外部サービスは積極的に活用していきましょう。
介護に正解はないと考えて「できること」をやる
主に介護をする方は、介護される方と近い関係性が多いでしょう。しかし、基本的に介護者は介護のプロではありません。被介護者の生活の質(QOL)を上げることは大切ですが、気負い過ぎず「できることをできる範囲でやる」という心持ちでいてください。
正しい、理想の介護を追求すると心身にかかる負担もさらに大きくなってしまうので、介護者と被介護者ならではのバランスを見つけることも大切です。
いつまでも続くわけでないと考える
例えば、認知症による問題行動が大変だとします。しかし、その状態がいつまでも継続するとは限りません。病院を受診し、ご本人に薬が合えば問題行動をある程度抑えられるケースもあります。
また、骨折、転倒など怪我をしている方を介護する場合には、リハビリなどに積極的に取り組むことによって、回復する可能性もあります。状況は常に変化するものと考えましょう。
相談できる、心の声を吐き出せる相手や場所を持つ
身近で介護の相談ができる方がいればいいのですが、そうでない方は担当のケアマネジャーに話を聞いてもらうことをおすすめします。
具体的な介護方法をアドバイスしてもらったり、悩みや不安を聞いてもらったりできます。友人や知人など、日頃からのコミュニケーションも大切です。
担当のケアマネジャーへの相談が難しければ、地域包括支援センターの窓口も可能です。インターネット検索で『〇〇市▽▽町(自分の住所地) 地域包括支援センター』で検索し、相談してみましょう。
施設を頼るのも適切なケアの一つ
「介護施設には抵抗がある」、「最期まで自宅でみないのは親不孝なのではないか」、と考える人もいるでしょう。しかし、介護保険制度が施行されてから、被保険者はしっかり介護を受ける権利を有しています。それは、在宅介護サービスだけではなく、施設介護サービスも同じです。
近年では、介護施設は「施設」というよりも、「第二の自宅」として開設されているところも増えています。
施設で適切なケアを受けながらも、安心安全な生活を送り、家族は笑顔で面会にいくというのも、一つの介護の在り方です。毎日顔を合わせてストレスを溜めるよりも、週に1~2回の面会を行う方が、介護者・被介護者両方にとって良い関係が保てることもあるでしょう。
在宅介護に限界を感じる前に、介護のプロが在籍する介護施設も選択肢の一つです。担当者はその道のプロです。施設での暮らしは、介護が必要となっても自分らしい暮らしを送ることをサポートしてくれます。相談するだけでも気持ちが軽くなるので、気軽に問い合わせてみましょう。
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)
ケアコンサルタント(看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級)
大学病院、高齢者住宅などで看護師として勤め、大手不動産株式会社「ケアデザイン」の立ち上げに参画。支える人を支えるコンサルティングを開発実施。著書に[介護生活これで安心](小学館)「働きながら介護する〜ケアも仕事も暮らしもバランスとって〜」(技術評論社)。
自身も働きながら父親の遠距離介護を体験。介護、看護、医療サービスを利用しながら在宅での最期を看取り、多くの学び、想いを得る。現在は介護関連のコンサルティングの他、講演、執筆活動を行っている。希望は心と心を結ぶケアを広げていくこと。